圧倒的な声量と歌唱力を持つAl Banoは、ある意味とてもイタリアらしいというか、カンツォーネからの流れをはっきりと感じさせるイタリアン・ポップス・シンガーだと思います。
熱く力強いヴォーカルが持ち味ですが、同じ熱唱とはいってもMassimo Ranieri(マッシモ・ラニエリ)やFausto Leali(ファウスト・レアーリ)のようなひび割れ声ではなく、いくぶんざらざらとした感じはあるものの、なめらかで張りのある歌唱を聴かせます。
この声でアルバム1枚全部を熱唱されてしまうと、それはそれで聴いていて疲れるというか、暑苦しそうなのですが、そこにRomina Power(ロミナ・パワー)のやわらかいヴォーカルがまじることで、ほどよい軽さと聴きやすさが生まれます。
その意味で、この夫婦(当時)のデュエットは、とてもバランスの取れたよいものだったと思います。
このCDはベスト盤だけあって、ゆったりしたバラードからリズミックなポップス、クラシックまで、幅広く収録されています。
なかでもAlのヴォーカルがもっとも映えるのは、やはりゆったりとした大きなメロディのあるバラード系の曲でしょう。迫力のある声で歌われるバラードは、とてもドラマティックに響きます。
Alの声だけでは密度が濃くなりすぎ、重くなってしまうところを、Rominaの声が入ることですがすがしく軽やかにしています。
曲によってはパイプ・オルガンも入り、分厚い演奏がAlのヴォーカルをさらに力強く響かせています。こういったアレンジは、古いといえば古いのだけど、やはりちょっと感動的です。
M9の「Il ballo del qua qua」はどこかで聴いたことのある曲だなと思ったら、いまはなき東京・新宿のビアホール「ホフブロイハウス日本支店」(本店はドイツのミュンヘンにあります)でお客参加で踊った「アヒルのダンス」でした。懐かしいなぁ、新宿のホフブロイハウス。楽しいお店でした。