ANDREA BOCELLI


CIELI DI TOSCANA (2001年)

   アンドレア・ボチェッリ / トスカーナ
    (SUGAR / POLYDOR / VICTOR ENTERTAINMENT: UICO-1022 / 日本盤CD)



    jacket photo
  1. MELODRAMMA
       メロドラマ
  2. MILLE LUNE MILLE ONDE
       千の月と千の波
  3. SOMEONE LIKE YOU
       サムワン・ライク・ユー
  4. CHIARA
       キアーラ
  5. MASCAGNI
       マスカーニ
  6. RESTA QUI
       ここにいて
  7. IL MISTERO DELL'AMORE
       愛のミステリー
  8. SE LA GENTE USASSE IL CUORE
       思いやり
  9. SI VOLTO'
       恋人
  10. L'ABITUDINE (featuring Helena)
       優しさに慣れたなら
  11. L'INCONTRO (introduction poem recited by Bono)
       出会い
  12. E MI MANCHI TU
       君が恋しくて
  13. IL DIAVOLO E L'ANGELO
       天使と悪魔
  14. L'ULTIMO RE
       最後の王
  15. TORNERA' LA NEVE (bonus track)
       雪は戻るだろう


produced by: Celso Valli, Mauro Malavasi, Mark Taylor, Robin Smith, Tony Renis

Celso Valli: piano, keyboards, programming
Mauro Malavasi: piano, keyboards, percussions
Massimo Guantini: piano
Robin Smith: keyboards, guitars
Francesco Sartori: keyboards, synthetizers
Luca Bignardi: programming
Luca Malaguti: programming
Paolo Gianolio: guitars, bass, programming
Arturo Fornasari: guitars
Fausto Mesolella: guitars
Adam Phillips: guitars
Gary Miller: guitars, programming
Paolo Valli: drums
Luis Jardim: percussions
Leo Zed: percussions, keyboards
John Reid: bass
Margherita Graczyk: violin

London Session Orchestra
Studio Symphony Orchestra of Prague







 はじめてAndrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)の歌を聴いたのは、1997年ごろにNHKテレビの『イタリア語会話』で流れたヴィデオ・クリップででした。曲は「Per amore」でしたが、そのメロディと歌声を聴いて、その前の何年かは自分のなかですっかり鳴りを潜めていた「イタリアン・メロディ大好き病」が再発し、ほんとにひさしぶりに東京・高田馬場のイタリアン・ポップス専門店「Casa Bianca」に行ってアルバム『Romanza』を買い、そのままずるずるとイタリアン・ポップスの世界に引き戻され……。
 いや、こんなことはどうでもいいんです。ともかく、しばらくイタリアのポピュラー・ミュージックから離れていた耳には、Andreaの声と彼の歌うメロディはとても鮮烈でみずみずしく、またアルバム『Romanza』もその輝きをしっかりとCD盤のうえに焼き付けていました。
 ちなみに『Romanza』は、Andreaの世界向けデヴュー・アルバムになるわけですが、本国イタリアでは4枚目のアルバムにあたります。その内容は、それ以前にイタリアでリリースされていたアルバムからポップス系の曲を抽出し収録した、いわばベスト盤です。そして、いまから思うに、イタリアン・ポップスとしてのAndreaのピークは、この『Romanza』のころだったのかもしれません。

 Andreaはもともとオペラが好きで、イタリアでのデヴュー・アルバムである『Il mare calmo della sera』(1994年)には「Macbeth」「Tosca」「Carmen」といった有名なオペラからの曲を収録しています。1995年のアルバム『Bocelli』は全曲がポップスでしたが、同じ年にリリースされた『Viaggio Italiano』はクラシックとナポレターナで構成された作品でした。
 そのせいもあってか、日本やアメリカでの彼の扱いはクラシックの歌手。ポップス作品でもオペラ・ヴォイスで歌うことから「ソフト・クラシック」などという呼ばれ方もしていました。また、Andrea自身も『Romanza』で世界的な“ポップ・シンガー”としての名声を得たにもかかわらず、「自分はクラシックの声楽家。もうポップスはあまり歌いたくない。オペラ一本でいきたい」発言があったり、実際にリリースされるアルバムもクラシックのアリアなどを収録したものであったりと、ポップス歌手としてのAndreaのファンには少し残念な状況が続いていました。

 そんななかで1999年にリリースされた『Sogno』は『Romanza』以来3年ぶりのポップス作品で、ポップスとしてのAndreaのファンのあいだで期待されたのですが、残念なことに、そこには『Romanza』以前のようなヨーロッパらしいみずみずしさはなくなり、アメリカ的な大仰なドラマティックさが幅をきかせていました。実際、アメリカでは大きなセールスを記録したようですが、その後はまたクラシック系のアルバム・リリースが続きました。
 そして『Sogno』から2年、世界的なシンガーとなってからの3枚めにあたるポップス作品が『Cieli di Toscana』です。

 タイトルが「トスカーナの空」ですし、トスカーナといえばAndreaが生まれ育った中部イタリアの美しい田園地帯です。なので、以前のAndreaが持っていた、よりイタリアらしい音楽への回帰を期待したのですが、アルバムのオープニングを飾ったのは、ハッタリのきいたドラマ性を持った曲。
 アルバム・トップで大げさにハッタリをきかせるやり方は『Sogno』と同じです。そして曲調が、ハリウッド製大作映画ラヴ・ストーリーのテーマソングのような、いかにもなアメリカ的ドラマティックさを持っているのも『Sogno』と同じ。そのうえ、この曲のタイトルが「Melodramma(メロドラマ)」と、いかにも大衆受けをねらった感じなのも気をそがれます。
 この時点で、アルバムのタイトルは「トスカーナの空」だけど、やはりAndreaの心の半分以上はすでにアメリカに渡ってしまっていて、もう以前のイタリアらしいみずみずしさは取り戻せないんだなと感じます。

 それでも、『Sogno』ではやたらと鼻についた、いかにもなアメリカン・ウェイが、このアルバムでは、いくらかAndreaのなかで消化されている感じはします(それとも、たんにこちらの耳が“アメリカンなAndrea”に慣れただけでしょうか)。その分、いくらかは輝きを取り戻しているようにも思えます。その意味では、イタリアン・アメリカンな作品としてのクオリティは、『Sogno』よりも高くなっているといえそうです。
 だけど、Andreaは、やはりイタリアらしいメロディとイタリアらしいアレンジの曲を歌っているほうが、その魅力が生きると思います。たとえばAmedeo Minghi(アメデオ・ミンギ)などが曲提供とアレンジをしたら、かなりよいものができそうな気がします。

 それと、もうひとつ気にかかることがあります。それは、彼の声です。なんとなく、以前ほどの透明感がなくなり、にごってきているように思えるのです。
 もともと彼の地声は少しざらつきのある声のようで、それはそれで魅力があるのだけれど、高音部でのオペラ・ヴォイスはクリアで暖かみのある、聞き手をやわらかく包み込むような声だったはずです。彼のことを「声に四季がある」と表現した人がいましたが、自然の恵みや大地のやさしさを感じさせるような伸びやかな声は、彼の大きな魅力だったはずです。そして、その美しく伸びやかでやさしい声に、イタリアらしい情感を上手に乗せて歌うAndreaの歌には、たとえそれがクラシックの曲であってもポピュラリティがあり、だからこそふだんクラシックを聴かないようなファンにも受け入れられたのでしょうし、女性のファンが多いというのもその点からなのでしょう。

 しかし、このアルバムで聴ける声には、伸び伸びとした感じも、イタリアらしい情感も、あまり感じられないのです。そのかわり、なんとなく小手先の技術で歌っているような印象を受けてしまいます。そのあたりも“魂を表現する”イタリアのポピュラー・ミュージックを故郷に置き去りにし、“器用かつ派手に見せる”アメリカのポピュラー・ミュージックを歌うことにAndreaおよびスタッフの意識が移ってしまったんだろうなということを感じさせるのです。
 これを自分は残念に感じるのですが、たとえばCeline Dion(セリーヌ・ディオン)だとかマライア・キャリー(つづりがわかんないや)だとかが歌うアメリカのドラマティック&ロマンティックな曲が好きなポップス・ファンにとっては、適度にヨーロッパの哀愁が感じられるロマンティックな音楽として心に響くのかもしれません。

(2001.11.18)







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