FSBはブルガリアのグループだそうです。ブルガリアといえば、国民はヨーグルトばかり食べてる気がするとか、ドメーヌ・ボイヤールがつくるブルガリアン・ワインはお手頃価格でけっこうおいしいとか、ブルテリアと音が似ているとか(ぜんぜん関係ないですね)、くだらないこと以外には意外とイメージが浮かびません。音楽系でいえばブルガリアン・ヴォイスという、民族音楽のコーナーでCDが売られているコーラス系(なのかな?)のものがありますが、ポピュラー・ミュージック系ではどんなものがあるのか、ぜんぜんイメージできません。
でも、旧体制下で思想統制が厳しかったチェコやポーランドなどの旧東側諸国にだってロックがあったくらいだから、世界中どこにいっても民衆が楽しむポピュラー・ミュージックはあるはずで、ブルガリアにロック/ポップスのグループがいても、べつに不思議なことではありません。
FSBはもともとスタジオ・ミュージシャンをしているメンバーが集まってつくったグループらしく、そのためもあってか、演奏力がとても高いです。1970年代のなかばころにデヴューし、いまも現役で活動を続けている彼らは、本国ブルガリアでは多数のアルバムをリリースしているようで、ブルガリアン・ロックのトップ・グループのひとつといってもいいのでしょう。
このCDはタイトルどおり彼らのベスト盤で、1976年から95年までの曲が収録されています。タイトルに『Vol.2』とあることからもわかるとおり、ほかに『Vol.1』と『Vol.3』があります。CD-ROM仕様になっていて、ヴィデオ・クリップも収録されています。
収録された曲はリズムのキレもよく、音づくりやアレンジに田舎臭さは感じられず、都会的でスッキリとした印象があります。年代からか、アメリカの産業ロック的な匂いもふんだんにありますが、一方で『FS』のころのNew Trolls(ニュー・トロルス)などを思い出させるようなところもあります。
ただ、New Trollsはアメリカ的な匂いを感じさせながらも基本はイタリアの個性を強く感じさせる音楽であったのに対し、FSBの音楽からは、あまりブルガリアらしさ(というのがどういうものなのか、よくわかりませんが)、というかヨーロッパらしさが感じられません。多分にアメリカ的、産業ロック的、AOR的な部分が強く、歌詞が英語だったら「1980年代のアメリカのロック・グループだよ」といわれても信じただろうなと思います。
彼らの音楽を「TOTO(トト)とPooh(プー)を足して2で割ったような」と表現した人がいましたが、このCDを聴くかぎりでは、TOTO的な要素が圧倒的に強い感じがします。なめらかで人懐こいメロディは、意識の面ではPoohに通じるところがあるといえるのかもしれません。
ポップで明るく、メロディアスで、ちょっとおしゃれなロックです。なんとなく、産業ロックがはやっていた当時は産業ロックをばかにしていたけれど、あれから10年以上が経ち、いま改めて聴いてみると「意外といいメロディを持ってるじゃん」と思えるようになっていることに気づいた、往年のコアで先進的な(?)洋楽ロック・ファンなどに愛されそうな音楽のような気がします。