1999年の前作『Variatio 22』ではコ・アレンジャーに元Bottega dell'Arte(ボッテガ・デッラルテ)のRomano Musumarra(ロマーノ・ムスマッラ)を迎え、一部の曲では非常にRomanoらしいクラシカルなアレンジが施され、イタリアン・ポップスならではの優美な美しさを聴かせてくれました。しかし、それ以外の曲はどちらかというとブリティッシュ・ギター・ポップ的で、それはそれでいいのだけれど、1枚のアルバムとして聴いた場合に、あまり統一感のない作品になっていたと思います。
このアルバムでのクラシカル部分は明らかにアレンジャーであるRomanoが持ち込んだもので、Daniele Groff(ダニエーレ・グロッフ)自身の持ち味はたぶん、ブリット・ポップ風味にあるのだと思っていました。
しかし、およそ2年ぶりになる『Bit』を聴くと、そのどちらの音楽性も彼の持ち味の一部であり、前作ではそれぞれの要素を別々の曲想のなかで強調して表現したのかなという気もしてきます。このアルバムにはRomanoはかかわっていませんが、ここで聴かれる音楽は、ブリティッシュ・ポップ的な雰囲気を持ちながらも、イタリア的な柔らかさと美しさも持った、おだやかなものが中心となっているからです。
オーケストラも使われていますが、前作ほどクラシカルにならないのは、やはりRomanoがいないからでしょうか。しかし、充分にたおやかでクラシカルなテイストがあります。ミディアム・テンポの曲が多く、メロディも綺麗です。
ただ、メロディアスで、充分にポップで、ときにセンチメンタルで、アルバムから受ける印象は比較的よいにもかかわらず、聴き終わったあとにあまり心に残らないのです。なんとなくいいのだけど、それ以上に伝わってくるものが見つかりません。
それはたぶん、曲のなかでフックとなるような、印象的なパートやメロディがなく、全体を通して均一なものになっているからでしょう。
イタリアの音楽といえば、以前は押しと引きの落差といったメリハリに強烈な個性があり、それが独特の美しさと哀愁にもつながっていたと思うのですが、最近はそういった濃ゆさがなくなり、綺麗なのだけど印象の薄い音楽が増えてきているように感じます。
Danieleのこのアルバムについても、2000年にリリースされたGianluca Grignani(ジァンルカ・グリニャーニ)の『Sdraiato su una nuvola』もそうでしたが、耳ざわりのよい美しさ、やわらかさと引き換えに、カンタウトーレとしての個性の強さを捨ててしまったのかなとも思えるのです。
聴きやすいし、ポップで、メロディアスで、イタリアらしい要素もたくさんあるので、イタリアン・ポップスの初心者などにも馴染みやすそうな、とてもいいアルバムなのだけど、かといってこのアルバムがムジカ・イタリアーナの心を充分に伝えているかというと、そうではないよなぁと思ってしまうのです。