1: BOCCA DI ROSA
バラの唇
2: ANDREA
アンドレア
3: GIUGNO '73
73年6月
4: UN GIUDICE
判事
5: LA GUERRA DI PIERO
ピエロの戦い
6: IL PESCATORE
漁師
7: ZIRICHILTAGGIA
羊飼いの争い
8: LA CANZONE DI MARINELLA
マリネッラの歌
9: VOLTA LA CARTA
隠された謎
10: AMICO FRAGILE
去り行く友
1979年の1月に、イタリアのフィレンツェおよびボローニャで行なわれたコンサートを収録したライヴ盤。演奏・アレンジをPFMが担当しています。LPでは6曲目「il Pescatore」からがB面です。
1960年代の終わりごろから活動しているファブリツィオは、いわば非常にカンタウトーレらしいカンタウトーレ。言葉を大事にした作風は、歌詞の内容を理解できない異国人には、多少とっつきにくいもののようです。
しかしこのアルバムでは、イタリア最高のロック・グループであるPFMがバックを担当することにより、アーティスティックな“詩(うた)”に躍動感を与え、音楽的な“唄(うた)”としてのコントラストを引き出しているといわれています。
自分は彼のオリジナル・アルバムをほとんど聴いたことがないので、ここで聴かれる曲想と元々の曲想のあいだにどれほどの開きがあるのか、わかりません。とはいえ、ライヴ盤であること、ロック・グループが演奏を担当していることなどを考えれば、ここで聴かれる音楽は、元のものよりも派手になっているんでしょう。
しかし、派手になってこの渋さ、味わい深さだとすると、元々の作風はかなり地味なんでしょう。シャンソンなどにも通じるところのある彼の音楽は、リスナーを選ぶタイプだといえます。
このアルバムには10曲が収録されていますが、好評だったようで、翌1980年には続編がリリースされています。
非常に土着性の高い音楽、民族舞踊風な曲・アレンジが多く、一般のイタリアン・ポップス・ファンよりは、コアなワールド・ミュージックやフォルクローレ等のファンに、よりアピールしそうに思います。ファブリツィオの落ち着いた、説得力のある、語りにも似た唄は、まさしく吟遊詩人のそれではないでしょうか。
それをサポートするPFMの演奏は、やはり「さすが」としかいいようがありません。ファブリツィオの唄を決して邪魔することなく、ともすればダレがちなタイプの音楽に、ほどよい緊張感と彩りを与えています。
とくにフィドルとギターは、まるで最初からこれらの楽器が加わることを約束されていた曲であるかのように、見事に溶け込み、イメージをふくらますことに成功しています。
素朴な町で営まれる生活のなかから生まれてきた音楽、と呼ぶのがふさわしいように思います。
派手な成功や大きな快楽はないけれど、日常的な小さな夢のある町。よいことだけではなく哀しいこともある、喧騒に包まれた生活のある町。そこで展開される日常、出会いと別れ……それらを優しい目で見守る詩人の音楽。
2曲目「Andrea」や7曲め「Zirichiltaggia」などは非常に軽快な曲、5曲目「la Guerra di Piero」や8曲め「la Canzone di Marinella」などはロマンティックな印象を持ったカンタウトーレらしい曲と、曲調に違いはありますが、それぞれにファブリツィオの持ち味があります。けっきょく、どんな曲調でも、彼の唄があれば、彼の音楽になってしまうのでしょう。
10曲目「Amico Fragile」はプログレ風の印象を持った曲ですが、多少アレンジ的に浮いてしまっている感じもします。PFMのせいでしょうか?
味わい深い作品を残したファブリツィオは、1999年1月11日月曜日、肝臓癌のため亡くなりました。詩人の魂よ、神の御許で安らかに。