FRANCESCO GUCCINI


RADICI (1972年)

   フランチェスコ・グッチーニ / ラディチ
    (EMI MUSIC ITALY 7243 8 56431 2 5 / イタリア盤CD)



jacket photo  1: RADICI
 2: LA LOCOMOTIVA
 3: PICCOLA CITTA'
 4: INCONTRO
 5: CANZONE DEI DODICI MESI
 6: CANZONE DELLA BAMBINA
 7: PORTOGESE
 8: IL VECCHIO E IL BAMBINO


parole e musiche di FRANCESCO GUCCINI







 陽に焼けてセピア色になった古い家族の写真が掲載されたジャケットが印象的なアルバムです。自分は、こういった郷愁を誘う写真がジャケットに使われていると、どうも心を引かれてしまいます。たとえばLuca Bonaffini(ルーカ・ボナッフィニ)の『Prima di oggi era gia' domani』とか、Fabrizio De Andre'(ファブリツィオ・デ・アンドレ)の『Rimini』や『Anime Salve』など、こういったジャケットのアルバムには地味ながらも味わい深いものが多いように感じます。
 Francesco Guccini(フランチェスコ・グッチーニ)のこのアルバムも、やはり非常に地味ながらも、あたりまえの愛情が感じられる、優しく暖かい作品です。

 アルバム・タイトルの「radici」とは木の根や起源などを表わす「radico」の複数形で、英語に直すとたぶん「roots」ということになるのでしょう。
 自分はイタリア語が読めないので想像するしかないのですが、このジャケットで、このタイトルですから、たぶん自分の家族の起源、何世代も前から今の自分に至るまでの家族の生活や変遷などがテーマになっているのではないでしょうか。そのようなアルバムであるから、歌の背後に限りない愛情が感じられるのではないかと思うのです。もしかしたらまったくの勘違いかもしれませんが。

 曲調的には、カンタウトーレというよりは完全なフォークソング。アコースティック・ギターのアルペジオやストロークが演奏の中心で、そこにいくぶん言葉数の多い歌が重なります。決してなめらかではないけれど低く落ち着いた声は強い説得力を感じさせ、何世代にも渡って運命を切り開き、素晴らしい人生を追い求めてきた一族がすごしてきた苦労と悲しみ、そして喜びの日々が浮かび上がってきます。

 歌メロで聴かせるタイプの音楽ではないため、歌詞の意味が理解できない自分はたぶん、本来の彼の歌から感じられるであろう素晴らしさの半分も感じとれていないだろうとは思います。そういった点で、日本人には馴染みにくい、とっつきにくい面も多いでしょう。
 でも、言葉を持たない各種楽器からでさえ奏者の意識、意図といったものが感じられることは少なくありません。そして、人間の声は非常に表現力の豊かな楽器です。それを考えれば、感情を持つ人間がダイレクトに音を発しているのだから、その想いが聴き手の心の端に届かないことがあるでしょうか。

 もちろん、自分が感じたと思った聴き手の想いは、歌い手自身が意図していたものと同じではないかもしれません。
 でも歌は、歌い手の口から外へ出たときから、歌い手のものではなく聴き手のものになるのではないかと自分は思うのです。歌い手がなにを伝えたいと考えていたかも重要ではありますが、それ以上に、聴き手がその歌になにを聴き、なにを感じるかが、聴き手にとってのその歌の価値であり意味ではないでしょうか。

 こういった直情的でない曲を聴き、そこからなにかを感じるには、聴き手のイマジネーション力や、聴き手がこれまでに生きてきたなかでなにを自分の内部に蓄積してきたか、それがどれだけあるかといったことが問われるでしょう。外からの刺激をストレートに楽しむのではなく、それによって自分の内部から引き出されるものを楽しむタイプの音楽といえるのではないでしょうか。
 そしてこのアルバムは、聴き手が持っているそれらにそっと触れ、息を吹きかけ、優しくなでるだけの力を持っていると感じます。その意味でFrancescoは優れたカンタウトーレでしょうし、このアルバムもしみじみとした良い作品だといえるでしょう。

 ちなみに、リリースが1972年とプログレッシヴ・ロック全盛期だからか、バックのキーボードの使い方に当時のプログレッシヴ・ロック的な雰囲気が感じられます。

(2000.06.17)








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