arrangiamenti e realizzazione: Fausto Leali e Il volo
1944年10月28日生まれのダミ声カンタウトーレ、Fausto Leali(ファウスト・レアーリ)が、バックにイタリアン・プログレッシヴ・ロックのスーパー・グループ、Il volo(イル・ヴォーロ)を従えて録音したアルバム。LP/CDともに日本盤がありますが、もとのアルバムにはたんに「Fausto Leali」としかアーティスト・クレジットがないのに、日本盤では「ファウスト・レアーリ e イル・ヴォーロ」とイル・ヴォーロを強調するかたちでクレジットされているのが、なんだか寂しく感じます。狙いはわかりますが。
それに自分も、日本盤LPがリリースされたときに、Il voloのクレジットに魅かれてこのアルバムを入手したのは抗いようのない事実であります。好きでしたから、Il voloのセカンド・アルバム。そしてFausto Lealiのこのアルバムも、以前は大好きで、よく聴いたものです。最近しばらく聴いていなかったので、ひさしぶりにCDラックから出してみました。しかし...
なんだか、あんまり楽しめないのです。Faustoの熱い歌があり、Il voloの上昇気流に乗ったような演奏も変わらずにあるのだけど、以前のようにに「いい!」と思えない。
このアルバム、カンタウトーレの作品としては、Il voloの色が強く出すぎているのかもしれません。Il voloの演奏は素晴らしいのだけど、その演奏が支えるべきFaustoの歌に、というか、曲そのものに、実はあまり魅力がないように思います。彼があの声で歌って、Il voloが演奏しているから、なんとなく「いい感じ」に聴こえるけれど、そして、それこそがこのアルバムのアドヴァンテージなのかもしれないけれど、そのアドヴァンテージを取り除いたところに残る「核」となるべき楽曲に、あまり魅力を感じない。自分にとってもっとも魅力的に響いてしまう部分はIl voloの演奏なのですが、であればIl voloのアルバムを聴いたほうがいいわけで、結果としてカンタウトーレ作品としてもプログレッシヴ作品としても微妙に中途半端な印象が残ってしまいました。
M1「Io camminero」はUmberto Tozzi(ウンベルト・トッツィ)の名曲で、Umbertoも自身のアルバムで歌っています。Umbertoヴァージョンのほうがすかすかした感じで聴き手の感情が入り込む余地が多くあり、自分は好きです。
M2「Il volo della farfalla」はもう、そのまんまIl voloの曲そのものといった感じ。上昇気流にのってぐんぐんと空高くのぼっていくような高揚感が心地よいです。
M3「Brucia il paradiso」はなめらかでさわやかなメロディを持った軽快なテンポの曲。女性ヴォーカルも入ります。バックのピアノがときどきホンキートンク調になるのも楽しいですが、全体の演奏はかなりIl voloチック。
アルバム・タイトル曲となるM4「Amore dolce, amore amaro, amore mio」はFaustoのひび割れた声質を活かした哀愁のバラード。あふれ出す情感が止まらないといった感じです。
M5「Una grande festa」はやわらかくあたたかい感じのフォーク風の曲。初期のClaudio Baglioni(クラウディオ・バッリォーニ)とかが歌っててもよさそう。アコースティック・ギターのストロークが心地よく響きます。Faustoもあまり力まず、リラックスして歌っています。
M6「L'ultima volta」はピアノのアルペジオに導かれて始まるマイナー調の哀愁バラード。短めのヴォーカル・パートが終わったあとは演奏がリズミックになり、そしてまた湿った哀愁へと戻っていく構成になっています。ヴォーカル・パートよりも演奏パートのほうが印象に残る曲。
M7「Una chiesa di alberi e ginestre」はどうといったことのないミディアム・テンポのポップス。
M8「Hey psst psst donna」は少しユーモラスな雰囲気のあるロックンロール。こういった感じの曲、アメリカのStyx(スティックス)にもあったような気がします。
M9「Dum dum la la」は素朴であたたかみのあるフォーク・ソング。ほどよい哀愁とほどよいシンフォニック・アレンジがうまく混ざり合っています。カンタウトーレとしてのFaustoの味わいが前面に出ていて、自分としては、このアルバムのなかでもっとも好きな曲。
M10「Amore vivo」は軽快なムード・ミュージックといった感じ。リゾート地で聴いたら気持ちよさそうなリラックス感があります。
M11「Ai dedick piu'」はインストゥルメンタル。ひっかかるように奏でられるアコースティック・ギターのメロディ、すっきりとしたオルガン、そして飛翔するエレキ・ギター。ここにFaustoの影はまったくなく、完全にIl voloの曲になっています。
FaustoのヴォーカルとIl voloの演奏は、相性としてはいいものだと思います。でも、Faustoの作風とIl voloの作風がうまく融合しているようには、自分にはあまり思えないのです。おたがいに溶け合って新しいものが生まれたというよりは、ふたつの要素をくっつけてみただけのような。Premiata Forneria Marconi(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)がバックアップしたFabrizio De Andre'(ファブリツィオ・デ・アンドレ)のライヴ・アルバムは、その点がみごとなんですけどね。
結果的にFaustoのこのアルバムは、やはりプログレッシヴ・ロック・ファン向け、Il voloファン向けといった要素が強いように感じます。Faustoのファン、カンタウトーレのファンからすると、「歌」の魅力が少し弱いように思うのです。そういう意味では、アルバムのアーティスト・クレジットを「ファウスト・レアーリ e イル・ヴォーロ」とした日本のキングレコードの感覚は、間違いじゃなかったのだろうな。