1: IL MANICHINO
2: RESPIRO
3: E MI MANCHI TANTO
4: MERAVIGLIOSO
5: ORIZZONTE
6: FENESTA VASCIA
7: IL NOSTRO CONCERTO
8: GOCCE
9: ALFONSINA Y EL MAR
10: FRANCESCA
11: NE ME QUITTE PAS
12: FIUME GRANDE
フランコ・シモーネは、基本的にはオーソドックスなカンツォーネ・イタリアーナを唄う歌手のようです。ベスト盤を聴いた感じでは、美しいオーケストラをバックに、イタリアらしい流れるようなメロディが得意なように思いました。
今回紹介する『VOCEPIANO』は、そんな普段の彼の作風とは違う、いわば企画もののような感じですが、タイトルどおり声(VOCE)とピアノ(PIANO)で綴られる、シンプルながらも味わい深い作品です。
このアルバムには「Dizionario dei Sentimenti」(感情の辞書)という副題がついています。そして、それぞれの収録曲にも、1曲目から順に「la pazzia」(錯乱)、「l'appagamento」(満足)、「la nostalgia」(郷愁)、「l'ottimismo」(楽観主義)、「l'offerta」(申し出)、「la passione」(情熱)、「l'attesa」(期待)、「l'intimita'」(本心)、「la disperazione」(絶望)、「la dedizione」(献身)、「l'abbandono」(放棄)、「il ricordo」(思い出)というテーマが与えられているようです(5曲目の「申し出」だけ、なんか変な感じですね)。
それぞれの曲に与えられたテーマを追っていくと、狂おしいほどに何か(愛?)を求め、しかし想いはかなえられず、傷ついた心を暖めている──というようなストーリーが浮かび上がります。もちろんこれは、勝手な想像ですが(自分はイタリア語が理解できないので)。
しかし、このアルバムは、このようなストーリーを思わせるに充分な切なさを持っています。全編を通してフランコの落ち着いた声と、マウリツィオ・マリアーノ(Maurizio Mariano)という人の弾くピアノ、そしてごく控えめなキーボード・オーケストレーションにより、心を締め付けられるような物語が展開していくのです。
彼の声は、少しかすれています。といっても熱唱タイプではなく、どちらかというと頼りなげ、はかなげで、抑えめに唄っています。それがまた、一層の哀愁を感じさせます。
ピアノ中心のシンプルなバック、物語を思わせるアルバム展開、抑えめで語るような唄などから、なんとなくシャンソンに近い感じも受けます。
フランコは自分で曲を書く人ですが、このアルバムでは半分以上、他の人の曲を唄っています。たぶん、企画が先にあって、それにあわせて選曲したのではないかと思います。
1曲目はジーノ・パオーリ(Gino Paoli)の曲のようです。3曲目はアルンニ・デル・ソーレ(Alunni del Sole)の名曲、4曲目はドメニコ・モデューニョ(Domenico Modugno)、7曲目はウンベルト・ビンディ(Umberto Bindi)と、イタリアのポップ・シーンで活躍した人たちの曲が唄われています。
また、6曲目は西暦700年頃の作者不詳の曲、11曲目はフランスのシャンソン歌手、ジャック・ブレル(Jacques Brel)の曲、9曲目は誰の曲かわからないのですが、タイトルからしてスペインあたりの曲のようです。
このように、いろいろな人の曲にはさまれるように、彼自身の曲も唄われるのですが、なんの違和感もなく聴いていけます。元のメロディが持つ印象は、それぞれに特色があるのですが、アレンジに統一感があるため、全体としてまとまりのあるアルバムになっています。
そんななかでも、やはり彼自身による曲は、本人の感情の込め方のせいもあるのかもしれませんが、一段と切なく、哀しみを持っています。
インナーによると、このアルバムは彼のお父さんに捧げられています。「少なくとも今回は、“演奏にかき消されておまえの声が聞こえないのが残念だ”とはいわれないだろうと期待している」というようなことが書いてあります。
きっとフランコは、お父さんの自慢の息子なんでしょう。そして、こんなにいい声をしていて、唄もうまいのに、バックの演奏がうるさくてよく聞こえないじゃないかと、しょっちゅう文句をいわれていたのでしょう。そんなことを考えながら聴くと、どことなく心温まるものもあります。
寒い冬の夜に、暖かく燃える暖炉の明かりのなかで毛布にくるまりながら、かなわぬ想いを反芻する──そんな情景がぴったりくるようなアルバムです。