Emma Shapplin(エマ・シャプラン)についてはよく知らないのですが、ソロになる以前はNorth Wild(ノース・ワイルド)とかいうハードロック・バンドのヴォーカリストだったらしいです。このアルバムで聴けるクラシック発声のソプラノからは、ちょっと想像がつきません。
この『Carmine Meo』は、Andrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)の女性版として、フランスで大ヒットになったアルバムだそうです。
日本では、Andreaの女性版というと、同じSugarからアルバムをリリースし日本盤も出たFilippa Giordano(フィリッパ・ジョルダーノ)を思い浮かべる人のほうが多いでしょうが、初期のAndreaが行なっていた「クラシックの発声でポッポスを歌う」というスタイルからすれば、Emmaのほうがふさわしいといえます。Filippaの場合は「ポップスの発声でクラシックを歌う」のですから、アプローチの方向性がAndreaとは逆だといえます。
このアルバムに収録されている「Spente le stelle(星に想いを)」は、テレビ東京系の美術鑑賞番組「美の巨人たち」のエンディングテーマ曲として2000年後半に使われたこともあり、日本でも一部で高い人気を得ました。そのため、2000年に日本盤もリリースされているのですが、その際にはなぜか、Emmaというシンガーの『Carmine Meo』というアルバムではなく、『Carmine Meo part 1』というタイトルがつけられ、カルミネ・メオ・プロジェクト(?)のひとつという扱いになっていました。
このあたりの経緯については日本盤のライナーに解説があるらしいのですが、残念ながら自分は輸入盤しか持っていないので、詳しくはわかりません。なんでも、日本盤をリリースする際に、Emmaの個人名ではなくプロジェクト名で出すように、プロデューサーのJean-Patrick Capdevielle(ジャン・パトリック・カプデヴィーユ)から指示があったらしいです。ちなみに、プロデューサーのJean-Patrickは『Carmine Meo part 2』の制作に取り掛かっているそうですが、そのプロジェクト第2段にEmmaが参加するかどうかは未定なのだとか。
なんとなくプロデューサーにいいように使い捨てされてしまったような感じも受けるEmmaはフランス人らしいのですが、歌詞はなぜかスペイン語(だと思う)とイタリア語(なのかな? ちょっと違う部分もあるように思うので、方言か、あるいは古い言葉なのかもしれません)で歌われていて、フランス語や英語はありません。
発声はソプラノですが、もしかしたら正式に声楽を学んでいないか、あるいは学んだとしても期間が短かったのでしょう。トレーニングを積んだソプラノ・シンガーにくらべると、声の出方、音程の安定度、表現力ともに劣ります。
しかし、ポップ・フィールドで歌う分には、それでも充分以上にインパクトがあり、魅力的です。また、クラシックとしての完成度に満たないからこその聴きやすさ、馴染みやすさといったものあるといえます。この点でもAndreaに似た印象があります。
曲は、クラシカル・テイストはありますが、堅苦しいところはなく、ときにアイルランドなどのトラッドを思わせるところもあり、ポピュラー・ミュージックとしてのわかりやすさ、とっつきやすさがあります。
ちなみに、このアルバムでオーケストラ・アレンジを担当しているのは、古くからのブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックのファンには懐かしいであろうVic Emerson(ヴィック・エマーソン)です。
イギリスのロマンとドラマティシズムに彩られたMandalaband(マンダラバンド)や、イギリスならではの憂いとユーモアを持ったポップ・ロックを聴かせたSad Cafe'(サッド・カフェ)での彼の活動を覚えている人もいるでしょう。アルバムを出すごとにポップになっていったSad Cafe'以降の活動についてはぜんぜん知らずにいたのですが、まさかこんなところで名前を見るとは思いませんでした。
ヨーロッパ的な憂いとドラマティシズムを存分に感じさせるオーケストラ&コーラス・アレンジに、往年のMandalabandの片鱗が、ほんの少しだけ感じられる気がします(気がするだけですが)。
一方、Emmaのヴォーカルは、高音部が少し苦しそうだし、ロングトーンの迫力ももう少しあればなど、贅沢をいえば気になる点はありますが、ユーロピアン・ロマンティック&ドラマティックな楽曲を与えられた歌姫としては充分なちからと存在感を持っています。強迫的なところや過剰な自意識がなく、かといって媚びたところもなく、純粋に歌を楽しんで聴けます。
合唱も効果的に使われ、オペラティック・ポップスとしての魅力にあふれた作品です。