イタリアン・ポップスに詳しい人や、楽曲のクレジットを注意深く読むような人なら、Gatto Panceri(ガット・パンチェーリ)の名前も知っているかもしれません。
もちろん、本人もこれまでに数枚のアルバムをリリースしていますが、日本ではそれほど知名度は高くないと思います。しかし、日本も含め世界で大ヒットしたAndrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)のアルバム『Romanza』に収録された「Vivo per lei」の楽曲クレジットに、Mauro Mengali(マウロ・メンガーリ)、Valerio Zelli(ヴァレーリォ・ゼッリ)の名前とともに、Gattoの名前があるのです。
ちなみに、この「Vivo per lei」という曲は、もともとはORO(オーロ。Onde Radio Ovest)がオリジナルで、MauroもValerioもOROのメンバーです。
OROのファースト・アルバムに収録されたときは「Vivo per...」というタイトルで、クレジットはたんにOROとなっています。この曲はOROのサード・アルバムにも収録され、そのときにはタイトルが「Vivo per lei」になっているのですが、クレジットはやはりOROです。さらにOROが実質的にMauroとValerioのふたりのグループになってからリリースされた『Re tour』にも収録されましたが、そのときはタイトルが「Vivo per...」に戻り、クレジットはValerio、MauroとGiliath(ジリアス)という人になっています。
つまり、この曲のクレジットにGattoの名前が出てくるのは、Andreaのアルバムのみなのです。どういうことなのでしょうね。もしかして、GiliathというのがGattoのことなのかもしれません。
それはともかくとして、Gattoのこのアルバムに「Vivo per lei」的な分厚くてドラマティックな曲を求めると、肩透かしをくらうことになるでしょう。ギターとキーボードのオーケストレーションが厚みのあるアンサンブルを聴かせるOROや、オーケストラを配しオペラ・ヴォイスで歌うAndreaとでは、アルバムのスタイルがまったく違います。
Gattoのこのアルバムには、派手なドラマティックさや厚みのある演奏はないものの、ロック・カンタウトーレらしいロマンティシズムとリリシズムがあります。ロック的な曲調が多いところはBiagio Antonacci(ビアージォ・アントナッチ)やGianluca Grignani(ジャンルーカ・グリニャーニ)などに通じるところがあるかもしれませんが、彼らよりもGattoのほうが全体的にメロディアスで、フレーズとしての美しさだけでなく曲全体のとしての美しさを構成できる人のように感じます。
少しかすれ気味の声も、イタリアにはよくあるタイプとはいえ、やはり味わいがあります。あまりパッショネイトに歌わず、抑えたなかにさまざまな情感が詰め込まれているといった感じです。
軽快な曲とスロー〜ミディアムテンポの曲の配分もよく、彼のコンポーザーとしての魅力とシンガーとしての魅力の両方が感じられます。
なお、収録曲は、Mogol(モゴール) / Lucio Battisuti(ルーチォ・バッティスティ)による「Amarsi un po'」以外はすべて自分で作詞・作曲をしています。プロデュースはPremiata Forneria Marconi(プレミアータ・フォルネーリァ・マルコーニ。PFM)のPatrick Djivas(パトリック・ジヴァス)が行なっていますが、PFMの他のメンバーの参加はありません。