Irene Grandi(イレーネ・グランディ)のアルバムを聴くのははじめてなのですが、2000年のサンレモ音楽祭参加曲の「La tua ragazza sempre」はけっこう気に入っていたので、それなりに期待をしてこのアルバムを聴きました。
先に印象をいってしまえば、サンレモ参加曲は特別に出来がよかったのかなといったところでしょうか。明るさのなかに短いながらもドラマティックな展開があり、それがIreneの力強いヴォーカルと合っていた「La tua ragazza sempre」のクオリティ・レベルは、Ireneのちからというよりは、曲を提供したVasco Rossi(ヴァスコ・ロッシ)のちからによるもののほうが大きかったようです。
自分で曲を書かないカンタトリーチェ(女性シンガー)の場合、誰から曲の提供を受けたか、そして誰にプロデュースしてもらったかで、ずいぶんとアルバムの出来に差が出てくることが多くあるようです。Ireneの場合は曲づくりの一部に自分で参加してはいますが、それでもこのアルバムは、少なくともVascoが曲提供した「La tua ragazza sempre」ほどの完成度を持っていません。
Ireneのアメリカン・ロック的な開放的で明るさと力強さを感じさせるヴォーカルは魅力ではあるけれど、曲の出来不出来や曲調の差をカバーしIreneならではの音楽にしてしまうほどの個性の強さは、残念ながらありません。
プロデュースを担当しているのはDado Parisini(ダード・パリジーニ)。彼は、Laura Pausini(ラウラ・パウジーニ)やPaolo Vallesi(パオロ・ヴァッレージ)のアルバムなど、イタリアらしいなめらかな美しさを持ったポップス作品でよい仕事をしていますが、Ireneのような乾いた感じのアップ・テンポな曲は、あまり得意ではないのかもしれません。
それでも、曲のはしばしにアメリカン・ユーロピアンなインパクトを持ったフレーズが短いながらも顔を出し、ひきつけられるものがあります。こういったキャッチーさはIreneのヴォーカル・スタイルに合っているといえるでしょう。
ただ、せっかくそういったフレーズで聴き手の心をつかんでも、それを維持できないところが、楽曲自体の弱さであり、なによりもIreneのヴォーカルの弱さではないかと思います。アメリカン・ソウルやR&B風の曲も多く収録されているのですが、こういった“聴かせる”タイプの曲を歌うには、Ireneのヴォーカルはメンタル面で未熟だし、ヴォーカリストとしての技量面でもついていけていません。
いっそのこと、全編をアメリカン・テイストのガール・ロックにしてしまったほうが、少なくともこのアルバムの時点のIreneにとっては、持てる魅力を充分に発揮できたのではないでしょうか。
Ireneの歌には、Laura Pausiniのような優等生的お嬢様ポップスとも、Giorgia(ジョルジァ)のような大人の女性的ジャズ・ソウル風ポップスとも違う魅力があります。それは、男も女も関係なく友達同士で一緒にくだらないイタズラをして笑ったり、仲間内のパーティで大騒ぎしたりといった、天真爛漫な元気さと明るい素直さがある一方で、ときおり見せる、たぶん本人も意識していないような女性的な美しさとでもいったところでしょうか。この部分をもっと伸ばしていってほしいなと思うのです。