JACULA


TARDO PEDE IN MAGIAM VERSUS (1975年)

   ヤクラ / サバトの宴
    (MELLOW RECORDS / MELOS: 004/MMP136 / 日本語解説つきイタリア盤CD)



jacket photo
  1. U.F.D.E.M.
  2. PRAESENTIA DOMINI
  3. JACULA VALZER
  4. LONG BLACK MAGIC NIGHT
  5. IN OLD CASTLE


produced by Anthony Bartoccetti

Anthony Bartoccetti: guitars, bass, vocals
Charles Tiring: organ, harpsichord, moog synth, vocals
Fiamma Dello Spirito: lead vocals, violin, flute
Franz Parthenzy: medium








イタリアン暗黒ミサ・プログレッシヴ・バンド(?)Jacula(ヤクラ)の、唯一の正式アルバム。めちゃめちゃはったりが利いたゴシック系暗黒シンフォニックを奏でます。

いきなり鳴り響くチャーチ・オルガンで聴く者の不安をかきたて、チェンバロの演奏に乗ったシャーマニックな女性ヴォーカルでいっそうおびえさすという、安っぽいオカルト・ホラー映画のようなつくり。アルバム的には、このM1「U.F.D.E.M.」のはったり具合がもっとも聴きどころでしょう。

M2「Praesentia domini」に入ると、パイプ・オルガンの木管系の音によるバロック風な演奏が始まり、少し心が休まるかと思っていたら、そこに女性による詩の朗読が入ってきます。演奏をバックに詩の朗読といったスタイルは、プログレッシヴ・ロックにはときどきありますが、徐々にこれが「詩の朗読」なんてものではなく、実はなにかの呪文、おそらく異端信仰の魔術書(キリスト教における聖書)のようなものの朗読ではないか、ということに気づきます。それに気づいた瞬間、そこは異端信仰の儀式の場。オルガンの音色もいつのまにか、木管系のやわらかな音から脅迫的な金管系に変わっています。あぁ、なんてホラー映画チックなわかりやすいはったりでしょう。

前半で思いっきり驚かせ、怖がらせておいたら、そのあとにはつかの間の休息、最後のショックの前に「これですべてが終わったのね」と思わせるかのようなやすらぎの時間があるのがホラー映画の常。このアルバムでもその構成は踏襲されているようで、LPのA面に当たるM1、M2で怖がらせたあと、B面に入ってM3「Jacula valzer」、M4「Long black magic night」で安らぎます。チェンバロやフルートのやさしい音色。M3ではガット・ギターをバックにスキャットが流れ出します。ちょっと「ローズマリーの子守歌」(映画『ローズマリーの赤ちゃん』挿入歌)風? M4にはヴァイオリンも入り、英語による詩の朗読。ちょっとやすらぎパートが長すぎるかもしれません。

そしてM5「In old castle」で、ふたたびチャーチ・オルガンが鳴り響き、終焉。

最初から最後まで、はったりだけで乗り切ったような作品。チャーチ・オルガンの厳かな音色には非常に心動かされるのですが、残念なことに、演奏が下手。せっかくのフレーズがきちんとつながっていないのです。そのうえリズム・セクションがないので、ロックとしてのダイナミズムもない。M5などはオルガン独奏で、これだったらバッハのオルガン曲集をリヒターか誰かの演奏で聴いたほうがましといった感じ。

イタリアン・ロックだから、プログレッシヴ・ロックというジャンルだから、とりあえずおもしろがって聴けるけど、暗黒ミサなロック(もどき)というアイデアがおもしろいから聴くけれど、これがたとえばGoblin(ゴブリン)だったら、演奏も曲づくりもアレンジも、もっと上手に、よりクオリティの高いはったりの利いたものにできたんじゃないかなぁとか思ってしまいます。Jacula、アイデアはいいけど、それを“ロック・グループ”として存分に表現するだけの力がないよなと。しかし、そのもやもや感は、のちにスロヴェニアから登場するDevil Doll(デヴィル・ドール)が払拭してくれるのでした。

(2007.07.29)







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