椎名林檎


加爾基 精液 栗ノ花 (2003年)

    (TOSHIBA EMI: TOCT-24942 / 日本盤CD)



jacket photo
  1. 宗教
  2. ドツペルゲンガー
  3. 迷彩
  4. おだいじに
  5. やつつけ仕事
  6. とりこし苦労
  7. おこのみで
  8. 意識
  9. ポルターガイスト
  10. 葬列







椎名林檎といえば数年前、朝の通勤電車の中で彼女の歌う「木綿のハンカチーフ」のカバーを聴いていたら涙が出てきてしまって、乗換駅のホームで泣きながら歩くおっちゃんひとりというこっぱずかしい状況になってしまったことがあります。椎名林檎、おそるべし。

そんなわけで、個人的に聴くことにちょっと危険を感じている林檎さんなのですが、この人やっぱり才能があるよねぇ。彼女の場合の才能は、talentというよりgiftな感じがします。なんとなく。なんて魅惑的な声。

ベースとなっているのはいわゆるポップス/ロックなのだけど、それを彩るアレンジの幅広さ、そしてどんなアレンジでも「椎名林檎」であり続ける歌声の主張の強さが素敵です。ときにジャズであり、ときにラウンジであり、ニュー・ウェーヴ系のロックであり、あえてオールド・ファッションドなポップスであったり。しかも素直にアレンジされているのではなく、それぞれのタイプのなかであえて異質なアレンジを混ぜ込んで緊張感や不安定さを演出したり。そういった姿勢から、アヴァン・ギャルドを内包したプログレッシヴ・ロックに通ずるものを感じます。

そして、ところどころで現われる感傷的な美旋律。古い時代の日本への思いをかきたてるノスタルジィ。

自分は林檎さんの熱心なファンではないし、彼女の曲のすべてがいいと思っているわけでもないけれど、その魅惑的な歌唱とときどき不意に現われるノスタルジックな美旋律にいつも「あっ...」と思わされてしまいます。おそらく、その前後の曲やアレンジで不安定さや緊張感を抱かされているのではないかと思うのだけど、そんな心の揺れ動きの中に突然飛び込んでくるメロディに、一気につかまれてしまう。ずるいです。

どこか懐かしくて美しい中に恐ろしい記憶もなぜかかすかに残っているようなノスタルジィを感じさせるM1「宗教」やM4「おだいじに」などは、もう、いわゆるポップス/ロックの範疇を超えていると思います。プログレッシヴだ。

めくるめく曲と声とアレンジで聴き手の心をかき乱す、危険で魅惑の香りが漂う作品だと思いました。

(2005.10.10)







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