produced by Kenji Ohtsuki
元・筋肉少女帯、大槻ケンヂさんのソロ・プロジェクトです。『スケキヨ』『アオヌマシズマ』の2枚のアルバムがあります。
このアルバム、なかなかの名作だと自分は思います。最近の大槻さんはすっかりのほほんおじさんな印象がありますが、ここにはカリスマ文学青年パンク・ロッカー大槻ケンヂの姿が色濃く感じられるのです。おそらく、筋少の後期よりも、より強く。
M1「不必要にヒラヒラのついた服」はもう、プログレッシヴ・ロック以外のなんと呼べばいいのでしょうか。フリー・ジャズ&ファンクなスタイルの演奏。ひたすら「愛している」と呟くだけのシュールなヴォーカル。さまざまな効果音。ときどき現われるシャーマンなヴォイス。なんてかっこいいんだ。ちなみに大槻さんはこの曲は「King Crimson(キング・クリムゾン)でいえば『アイランズ』というアルバムの1曲目のテイスト」といっています。やっぱりプログレッシヴ・ロックを意識してたのですね。
M2「少女はメッサーシュミットに乗って」は壊滅的なパンク。ぐにょぐにょした効果音。意味不明のシャウト。好きなタイプの曲ではないけれど、なんだかわからない他罰的ネガティヴ・パワーを感じます。可愛らしげな曲名からは想像もつかない音楽。ちなみに曲名のメッサーシュミットは、ミョーな型をしたクルマの名前と大槻氏は説明していますが、自分は名機と名高いドイツの戦闘機を最初にイメージしてしまいました。それに少女が乗っているのはシュールすぎるか。
M3「君は千手観音」は、思いっきり後期の筋肉少女帯ぽいハード・ロック。重いギター・サウンド。意外と素直でポップな歌メロ。妙にはつらつとした女性ヴォーカルの導入。だけど途中で読経?がまじってしまうあたりが筋少風。怪しい響きのギター・ソロは、なんだか印象の似た曲が聖飢魔IIにもあったような気がします。最後はドラをぶったたいて終了。
M4「ワインライダー・フォーエバー」はイントロがかっこいいな。力強くて華やかなブラス。バックではクリーン・トーンのエレキ・ギターによる小気味よいカッティング。一瞬Spectrum(スペクトラム)を思い出しました。でもヴォーカルが入ると、そこはやはりオーケンの世界。適当に歌っている感じの女性コーラスの導入、その女性たちとの掛け合い風ヴォーカルなど、いろいろなところで筋少ぽさを感じます。ちなみにこの曲、映画『シザーハンズ』で出会ったジョニー・デップとウィノナ・ライダーの若気の至りな恋をベースにしてるそうです。
M5「横隔膜節」は、アヴァンギャルドなパンクですね。初期の筋少風かなと思ったのだけど、あぶらだこの曲だそうです。あぶらだこ、インディーズ・シーンで有名なパンク・バンドですよね。音楽は聴いたことがないけど、名前は聞いたことがある。で、この曲は、混沌としたパワーの塊のような演奏で、そこに抑揚のついた詩の朗読のようなヴォーカル(ヴォイス?)が乗るという、プログレッシヴ・パンクといった印象です。
そしてアルバム最後のM6「Guru」。これは中期から後期の筋肉少女帯風でしょうか。シンフォニック・プログレッシヴ・ポップスといった感じ。「歌詞」というよりも「言葉」を演奏に乗せているといった印象の強い大槻さんのヴォーカル。透き通ったピアノの響きは初期の筋少サウンドを支えていた三柴理さん(当時は三柴江戸蔵さん)によるもの。サンプリングのメロトロンによるオーケストレーションも入る、美しくもロマンティックで哀しい音楽。そして、突然の終焉。余韻が強く残ります。
全体に「大槻ケンヂの音楽」としかいいようがないものばかりですが、そのなかでも自分の好みとしては、やはりM1とM6がとても印象に残ります。けっきょくこういうのが好きなんだな、自分。全体の収録時間が33分程度と短いのですが、これもかえって「もう少し聴きたい」という欲求と余韻を残し、非常によいと感じます。とくにM6がああいうかたちで終わるので、この短さは重要といえるでしょう。うん、素敵なアルバムだ。