1970年代から80年代にかけて主に活動していたカンタウトーレ。この間に数回、サンレモ音楽祭にも出場していて、それなりに人気があったようです。
しかし現在、彼のオリジナル・アルバムはCD再発がされておらず、当時の録音を聴くのは難しいようです。
D.V.MOREからリリースされたこのCDは、もちろんベスト盤。収録されているのはオリジナル録音ではなく、再録のようです。
オリジナルでは生のストリングスが入っていたのであろうと思われるところが、キーボードのオーケストレーションに置き換わっています。しかしそのオーケストレーションが、控えめながらもあまり薄っぺらさは感じさせないので、さわやかさのなかにほんのりとしたあたたかさ、やわらかさが表現され、意外といい感じです。
Leano Morelli(レアーノ・モレッリ)の書く曲は、なめらかなメロディと伸びのある声、それに劇的な展開といった、イタリアン・ポップスのわかりやすい美しさ、ドラマティックさとは、あまり縁がありません。少しかれてひび割れた声で歌われる曲は、よりフォーク的、カンタウトーレ的です。
アコースティック・ギターを中心に、おだやかなオーケストレーションがやわらかい空間をつくりだします。そのなかに言葉が湧き上がり、風に運ばれていくような、カンタウトーレならではのリリカルさとロマンティックさがあります。
どちらかというと、メロディよりは歌詞重視の印象を受けますが、Francesco De Gregori(フランチェスコ・デ・グレゴーリ)やFrancesco Guccini(フランチェスコ・グッチーニ)などよりはメロディ自体に動きがあるといえるでしょう。その分、彼らにくらべてヴォーカルの趣きに欠けるといった面もありますが、一方で馴染みやすいわかりやすさを感じます。
ところどころで安っぽいシンセサイザーのアレンジが出てきて、多少、興ざめな部分もありますが、そのアレンジが逆に、このCDのなかでのアクセントにもなっています。
メロディにしろ、声にしろ、これといった強い決め手には欠けるのですが、どちらもカンタウトーレ・イタリアーノのよい部分をほどほどに持っていて、充分に楽しめます。おだやかなイタリアの空気に包まれているような気持ちになります。
けっして派手な内容ではないので、イタリア初心者には楽しみにくいところも多そうですが、1970年代以降の多くのイタリアのポップ・ミュージックを愛してきた人には、心に触れるところが多々あることでしょう。アルバム1曲目の「Nata Libera」などは、一部のシンフォニック・プログレッシヴのファンにも愛されそうな、リリカルでたおやかな哀愁を称えた佳曲だと思います。