歌姫がSilvia Mezzanotte(シルヴィア・メッツァノッテ)に代わってから2作目となるMatia Bazar(マティア・バザール)。前作『Brivido Caldo』ではAntonella Ruggiero(アントネッラ・ルッジェーロ)時代の曲のリメイクが多く収録されていて、それもあってか、新ヴォーカリストSilviaの歌もAntonellaの強い影響下から抜け出せずにいました。
Silviaは声の感じや歌い方などが、前任のLaura Valente(ラウラ・ヴァレンテ)よりもAntonellaに似た印象があり、かといってAntonellaほどのリリカルかつダイナミックな、カリスマ的といっていい歌唱にはもちろんおよびませんし、また独特の力強さを聴かせたLauraとくらべても個性が弱く、どことなく借り物ヴォーカル的な印象がありました。
しかし参加2作めにして、Silviaもずいぶん伸び伸びと歌えるようになったようです。AntonellaやLauraのような押し出しの強いタイプではありませんが、伸びやかで張りのある声を存分に聴かせてくれます。
アルバム収録曲も新曲が中心になりました。はじめからSilviaが歌うことを前提に書かれた曲ですから、Silviaとしても歌いやすいのでしょう。なめらかなメロディと展開を持った、Matia Bazarならではの、美しく華やかで、ちょっとセンチメンタルなイタリアン・ポップスに、Silviaの歌声が綺麗に響きます。
ただ、以前のMatia Bazarは、もっとダイナミックな曲づくりをしていたと思います。メロディにしろアレンジにしろ、緩急の差が激しく、急激な場面展開があり、それが「メロディアスで美しいイタリアン・ポップス」から「Matia Bazarのポップス」を引き離し、際立たせていました。それにくらべると、本作も含め近作は、展開や構成に意外性のない、普通にメロディアスなポップスにとどまっています。
それは、Silviaのヴォーカルが、そういったダイナミックな場面転換にあまりついてこられないといったことも理由として大きいのでしょうが、グループのパーマネント・メンバーにギタリストがいないことも、要因として非常に大きいように思います。
ギターがパーマネントでないため、アレンジのなかでもソロ以外ではほとんど使われていません。オープンドな和声をベースにするギターのバッキングがほとんどなく、クローズドな和声のキーボードによるバッキングがメインになっているため、演奏にダイナミズムと、奥行きや広がりを感じさせる空間が少ないのでしょう。
また、コンポーザーとしても、鍵盤ベースのコンポーザーと弦ベースのコンポーザーではメロディラインのつくり方や和声のとり方、曲の展開などに差異が出てくるのですが、グループ内にギターで作曲するコンポーザーがいないことも、なだらかな曲調が多くなってしまうことの一因でしょう。
こういった点で、曲調としては「普通のポップス」に近づいてはいますが、それでもはしばしにMatia Bazarらしさは残っています。この色を消すことなく、次作ではもう少しダイナミズムを感じさせてほしいなと思います。