低く落ち着いた声が魅力的なカンタトリーチェ(女性シンガー)。けして強い個性があるとか、ヴォーカリストとして圧倒的にうまいということはないけれど、曲調が声・歌い方に合えば、けっこう味わい深い歌を聴かせます。
自分で曲を書かないカンタトリーチェにはありがちなことですが、Mietta(ミエッタ)の場合もやはり、いいコンポーザー/プロデューサーと一緒に仕事をしたか次第で、曲が全体として持つクオリティ、そしてアルバムの出来も、大きく左右されそうです。そういった外的な要因を自分のものとして消化し、Miettaならではの音世界を自分の声と歌でつくりあげるだけの力量は、残念ながら、少なくともこのアルバムの時点ではMiettaにないように思います。
このアルバムでは、Amedeo Minghi(アメデオ・ミンギ)、Mariella Nava(マリエッラ・ナーヴァ)、Biagio Antonacci(ビアージォ・アントナッチ)、Mango(マンゴ)といったカンタウトーレたちが曲を提供していますが、それぞれの曲がそれぞれのカンタウトーレらしい持ち味を持っていて、そこに“Miettaらしさ”のようなものがうまく消化されないままに歌われてしまっています。あくまでも曲を提供したカンタウトーレたちの曲で終わってしまっていて、Miettaの曲にはなっていないわけです。
とくにAmedeo MinghiとMangoが提供した曲では、曲の醸しだすそれぞれのコンポーザーの影が強く、Miettaの歌がまるで借り物のように感じられます。
また、アルバム全体の構成は、前半にはカンタウトーレたちの曲が並ぶのに、最後はなぜかジャズ・ヴォーカルになってしまい、アルバムとしての方向性がよく定まっていないように感じます。
ちなみにMiettaは、1989年のサンレモ音楽祭にAmedeo Minghiの書いた「Canzoni」で参加し、同年にAmedeoのプロデュースによりデヴューアルバムをリリースしているようです。また1990年には、やはりAmedeoの曲「Vattene amore」でサンレモ音楽祭に参加し、Amedeoとのデュエットを聴かせています。
そういった経緯がありながら、このアルバムではAmedeoは1曲にしか関わっておらず、曲提供もアレンジ/プロデュースも複数の人たちに行なわせています。そのため、余計にアルバムの方向性がバラけたものになってしまったのかもしれません。
収録されているそれぞれの楽曲は、どれも悪くはないのですが、それぞれの楽曲に歌い手であるMiettaが翻弄されているようで、けっきょく彼女はただのマリオネットなのかなという印象を受けてしまいました。