1970年代に活躍したイタリアン・プログレッシヴ・グループのなかでも、もっともイタリアらしい哀愁と歌心を持ったグループだったLe Orme(レ・オルメ)。Premiata Forneria Marconi(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ。PFM)やBanco del Mutuo Soccorso(バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ)、New Trolls(ニュー・トロルス)などの名グループらにくらべると、その演奏力はかなり聴き劣りはするものの、少し頼りなげなAldo Tagliapietra(アルド・タッリァピエトラ)の歌声は、演奏面の弱さを補って余りある、まさにイタリアならではの魅力をたたえていました。
1960年代から70年代にかけてコンスタントにアルバムをリリースしつづけてきたLe Ormeでしたが、1982年の『Venerdi』以後、ペースが遅くなります。90年代にはセルフ・カヴァーのアルバムを含めて3枚ほどのリリースでした。そして21世紀最初の年である2001年に、この『Elementi』をリリースし、ふたたび元気な姿を見せてくれました。
『Elementi』は、むかしと変わらぬ、いや、むかし以上にプログレッシヴ・ロックらしいプログレッシヴ・アルバムになっています。以前にはけっして誉められたものではなかった演奏力も格段に上がり、プログレッシヴ・ロックとしてのLe Ormeの作品のなかでは最高作かもしれないという声も聞かれるほどです。
1970年代のキーボード・トリオのころは「イタリアのELP」と呼ばれることもありました。とはいえ、それはグループの形態上のことだけで、音楽的にはぜんぜんELPには似ていませんでしたが。
一方、21世紀のLe Ormeがリリースしたこのアルバムでは、キーボードの音やアレンジなどにGenesis(ジェネシス)風の印象があります。アルバム・ジャケットも、初期のGenesisのアルバム・ジャケットを描いたPaul Whitehead(ポール・ホワイトヘッド)のイラストを使用しているので、意識的にGenesis風をねらったのかもしれません。
そして、アルバムのタイトルが『Elementi』。
プログレッシヴ・ロックで「要素(elements)」といった場合、多くは世界を構成する4つの要素「天・地・火・水」を表わします。この4要素をテーマにしたプログレッシヴ・アルバムは少なくなく、たとえばドイツのJane(ジェーン)による『Fire, Water, Earth & Air』や日本のStomu Yamashita(ツトム・ヤマシタ)のシリーズなどを思い出す人もいるでしょう。
Le Ormeのこのアルバムでは「風(vento)・地(terra)・雨(pioggia)・火(fuoco)」となっていますが、それらが表わす要素は同じこと。これらから、プログレッシヴ・ロックらしいプログレッシヴ作品をつくってやろうという彼らの意思が感じられるような気がします。
実際、収録されている曲は、懐かしくも心踊るシンフォニック・プログレッシヴ・ロック。さらに、あの「演奏がヘタ」と1970年代にいわれ続けてきた彼らが、アルバムの約半分でインストを聴かせています。もちろん、長いインスト・パートを聴かせるに耐えられるだけの演奏力を身につけて、です。
そして、Le Ormeといえばやはり、この声がなければ始まりません。イタリアな哀愁たっぷりのAldoのヴォーカルは、もちろん健在です。
1970年代のLe Ormeが奏でるキーボードの音色には、どこかくすんだ感じがあり、そこがまたイタリアらしいやわらかさとあたたかさを出していましたが、さすがに21世紀の作品では音色の輪郭がはっきりとしていて、少しばかり派手でかたい印象を受けます。その分、音色から受ける哀愁度は下がりましたが、メロディやアレンジにユーロピアンな哀愁が色濃く残っています。
往年の、あまりにもイタリア臭い、イタリアでしかありえないLe Ormeの音楽とくらべると、曲の構成や展開、メロディがスッキリしていてイタリアらしさが薄いとか、キーボードやヴァイオリンの音色に艶や丸みが不足していて薄っぺらく感じるとか、演奏がうまくなったといっても過去の彼らにくらべての話で、いわゆるロック・グループとしてみれば10人並以下だとか、粘っこくてロックなエレキ・ギターの音色がちょっとLe Ormeのカラーにあわないとか、全体的にポンプ・ロックや1980年代のジャパニーズ・プログレッシヴを思わせる匂いがするとか、気になるところはいくつかありますが、欲をいったらきりがありません。それよりも、Le Ormeがこうして健在で、充分なクオリティを持った歌と演奏を聴かせ続け、こういった愛すべき作品をリリースしてくれたという事実を、素直に喜びたいです。