produttore: Adriano Fabi
arrangiamenti: Claudio Gizzi
Fabio Fabiani: chitarre
Marcello Martorelli: basso
Sandro Laudastio: batteria, voce
Armando Baorne: organo, voce
その昔は「幻の名盤」といわれていたらしいIl paese dei balocchi(イル・パエーゼ・デイ・バロッキ)の唯一のアルバム。
1970年代のイタリアン・プログレッシヴ・ロックにはいろいろな名盤がありますが、なかでもこのアルバムは、ちょっと趣のかわった名盤ではないでしょうか。
オルガンを中心にベースとドラムの重たい響きがユニゾンでかぶさるオープニング・テーマの印象からか、このアルバムをOsanna(オザンナ)などと似たタイプの、ダークなドロドロ系シンフォニック・ロックと評する人もいるようですが、自分としては、このアルバムの本質は、ドロドロ感と透明な繊細さの両立にあるように思います。
重いテーマ・メロディのあとに突如入ってくる艶かしい弦の響き、ハードな演奏の合間に現われる静謐なコーラス、弦楽をバックに歌われる詩情あふれるメロディなど、静と動、聖と邪、明と暗が、アルバムを包むジャケット・アートさながらにモザイク状に現われては消え、Il paese dei balocchi(「おもちゃたちの国」といった意味でしょうか)という作品をつくりあげていきます。
演奏はけっしてうまくなく、キーボードにはミスタッチも目立つし、アルバム全体の構成もスマートとはいえずツギハギ的な印象もあるのですが、全体を通して感じられる、粘度のあるミネラルウォーターのような、透明ななにかがまとわりつくような感じが、アルバムに求心力を与えているような気がします。適度にSEも入り、宇宙と大地、この世とあの世、今日と明日のつなぎめに置き去りにされたかのような、不安と期待を感じさせます。
その意味では、純粋にメロディや展開を楽しむタイプというよりは、より絵画的、あるいは映像的な音楽だといえるでしょう。
ストリングスやキーボードの使用頻度は高いのですが、キーボード・ロックにはなっていません。エレクトリック・ギターはクリーン・トーンを使うことが多く、それもまた艶かしい瑞々しさをアルバムに与えています。
最後にはパイプ・オルガンまで導入され、オープニングで演奏されたテーマ・メロディが再度現われ、楽しい夢と悪夢が交差したような、どっか現実感がなくとらえどころのない世界の終わりを宣言します。
派手さがないので、どちらかといえばコアなイタリアン・プログレッシヴのファン向けといえるでしょうが、その意味も含めて「幻の名盤」と呼ぶにふさわしい作品ではないかと思います。