Anna Prucnal(アンナ・プリュクナル)はポーランド出身のシャンソン歌手。若いときから反体制的な歌を歌い、ポーランド政府に弾圧を受けていたが、その後、国外へ亡命してシンガーを続けた ── といった経歴の持ち主だったと記憶しています。
Annaの歌う歌は、シャンソンとはいっても、甘くロマンティックなところはほとんどありません。また、Francoise Hardi(フランソワーズ・アルディ)などのようなアンニュイな感じや、寂しげなものとも違います。
もちろん、そういった感じのものも歌えますが、それよりも、Annaのいちばんの魅力、持ち味は、喉の奥から魂を搾り出すような、血を吐くように歌うような、独特の力強い感情にあふれたヴォーカル・スタイルにあるでしょう。
アコースティック・ピアノやギターといったシンプルな演奏に乗せて歌われる音楽は、とても演劇的でもあり、ある種の抑圧された美しさがあります。その点で、いくぶんマニアックな歌手でもあり、いわゆるシャンソンやフレンチ・ポップスのファンには馴染みにくいかもしれません。
しかし、Annaの歌には、消費財としての現代大衆音楽がなくしてしまった「歌」、まさに「シャンソン」があると思うのです。歌に、声に、Anna Prucnalという歌い手の心臓の鼓動が聴こえる気がするのです。その意味で、とても生真面目な歌手だと思います。
ちなみにAnnaは1982年に来日公演をしたことがあり、その模様がFM東京でも放送されました。当時は日本盤でレコードも出ていたのですが、いまはたぶん、彼女の日本盤などないのでしょうね。
その後、Annaの歌に触れることはずっとなかったのですが、CDショップでひさしぶりにこのアルバムを見つけ、懐かしさと、まだ歌っていたんだというちょっとした喜びとともに、手にとってしまいました。
以前にくらべるとAnnaの歌は角が取れ、いくぶん丸みをおびたように感じます。来日公演のときに感じられたような、深い哀しみを秘めた力強さ、鬼気迫るような迫力といったものは多少、薄れています。
しかしそれでも、耳ざわりのいいシャンソンでないのはあいかわらずで、歌のはしばしに哀しみの血の涙を流しそうな深い思いが伝わってくる気がします。