2001年のサンレモ音楽祭は、出場者、参加曲ともに、個人的には非常に不調と思えるものでした。音楽祭後にリリースされた2種類のコンピレーションCDを聴いても、ほとんど心に残る曲がなかったのです。
ビッグ部門、新人部門ともに、強い輝きを持った曲、アーティストがなかったと感じます。
そんな不調なサンレモ音楽祭の新人部門のなかで、Roberto Angelini(ロベルト・アンジェリーニ)の曲は、なんとなく心に引っかかりました。
けっして、シンガーとしてすごくうまいとか、楽曲がすごく良いといったことはなく、どちらかといえば地味な歌と曲なのですが、どこかふわふわとした独特な浮遊感と透明感があり、これといった特徴のない曲が並ぶサンレモ参加曲のなかで、印象的な輝きを投げかけていたのです。
たぶんデヴュー作であろうこのアルバムには、サンレモ参加曲に感じられた独特な浮遊感と透明感が、全体に漂っています。レーベルがVirginということもあり、いわゆるイタリアらしさ、カンタウトーレらしさというものは強くなく、どちらかというとロック的な印象が強いのですが、あまり感情を表わさない淡々としたヴォーカルと、それを控えめに支えるオーケストレーションが、いくぶん初期のブリティッシュ・ニューウェーヴ的なリズム・セクションと絡み合い、曲に空間と奥行きを与えています。アコースティック・ギターの丸く、それでいて緊張感のある音色も魅力的です。
アコースティックな響きを奏でる一方で、打ち込みドラムやキーボードのデジタリックな音もあり、全体のアレンジのなかで聴こえてくる音色に複雑さが感じられます。アコースティックとデジタルのバランス感覚がよいアルバムだと思います。
ミディアム・テンポの曲が多く、派手さや激しさ、熱さはほとんど感じません。歌メロも、ヴォーカル・ラインで聴かせるといったメロディ重視のものというよりは、言葉と声の雰囲気で聴かせるタイプといえるでしょう。おだやかなメロディ展開と歌声で、独特な空間を生み出します。映像的な雰囲気を持ったカンタウトーレといえるでしょう。
やわらかな声は、ときにMango(マンゴ)のように聴こえたりもします。
抑えたアレンジはどこか清らかでもあり、聖歌のような雰囲気さえ漂うこともあります。意外と、耽美派ニューウェーヴのファンや、あるいはPink Floyd(ピンク・フロイド)あたりのファンなどにも受け入れられそうな気がするのは、この透明感と映像性、そして静謐さのせいでしょうか。