1972年にグループを去ったRiccardo Fogli(リッカルド・フォッリ)に代わってPooh(プー)に参加し、現在もPoohでベースを弾きつづけているRed Canzian(レッド・カンツィアン)のソロアルバム。
もともとビートポップ的な要素も持っていたPoohがRed参加後にリリースした最初のアルバムがリヒャルト・ヴァーグナー(Richard Wagner)にインスパイアされたクラシカル&ドラマティックな大曲を含む『Parsifal』だったこと、そしてRedがPooh以前に参加していたグループがシンフォニックなプログレッシヴ・ロックを演奏するCapsicum Red(カプシクム・レッド)だったこともあり、Poohにクラシック的なドラマティックさを持ち込んだのはRedではないかという人もいます。
そんなRedのソロアルバムなので、ドラマティックで壮大なクラシカル・テイストにあふれたポップ・ミュージックを期待していたのですが、実際にアルバムから流れてきた音楽は、シンセブラスなどもふんだんに導入されたリズミカルで明るいイメージのものが大半でした。同じPoohのメンバーのソロアルバムでも、Roby Facchinetti(ロビー・ファッキネッティ)の作品は明らかにPoohの延長上にあり、あたかも「ひとりPooh」な印象が強くありましたが、Redのこのアルバムには、ほとんどPoohを感じません。
Poohの音楽は、表面的には時代によってさまざまな装いをまといながらも、その根底にはいつもイタリアらしさがあふれていました。でも、Redのこのアルバムは、イタリア的というよりは、よりワールドワイドな、インターナショナルなポップ・ロックを指向したのだろうなということが感じられます。なので、Poohの関連作としてこれを聴くと、もしかしたら期待を裏切られるかもしれません。
しかし、メロディのはしばしにはイタリアらしいなめらかさ、明るさのなかのほのかな切なさなどがあり、ユーロピアン・ポップスとして充分なクオリティを持っています。
Poohからは他の3人のメンバー全員が1〜2曲でゲスト参加しています。彼らが参加した曲もそうでない曲も、等しく高いクオリティと方向性を持っていて、プロデューサーとしてのRedの力量がうかがえます。このアルバムでどういう音楽をやりたかったのかということについて、Redが明確なイメージを持っていたのでしょう。
ヴォーカリストとしてのRedは、けっしてうまくはありません。しかし、このアルバムのなかでヴォーカルをどのように聴かせるかについても明確なヴィジョンがRedにはあり、そしてそれを表現することに成功しているのではないかと思います。ゲストでLoredana Berte(ロレダーナ・ベルテ)がM3の「Tu no」に参加し、Redとデュエットしていますが、独特なパワーと個性を持ったLoredanaのヴォーカルにも埋もれることなく、Redのやさしげな声をきちんと調和させています。
英米的な要素も少なくないので、どっぷりイタリアンな曲を求めると少し不満かもしれません。でも、ポップス作品としてはよくできたアルバムです。M7の「Una stagione di un giorno」などはロマンティックなイタリアン・ポップスになっていて、とても魅力的です。