Roberto Vecchioni(ロベルト・ヴェッキオーニ)は1970年代から(もしかして60年代から?)いまも活動を続けているヴェテラン・カンタウトーレ。自分で歌うカンタウトーレとしても有名ですが、楽曲提供者としてもよく知られているようです。ポップス・グループのNuovi Angeli(ヌォーヴィ・アンジェリ)が演奏する曲などは大半がRobertoのPensiero!によるものです。
これまでに数多くのアルバムをリリースしていますが、なかでもこの『Samarcanda』は、プログレッシヴ・ロック系のファンのあいだでも愛されているのだそうです。
じつは、自分はRobertoのアルバムを聴くのははじめてだったりするのですが、1曲目の「Prologo - Samarcanda」を聴いていたら、なんとなくAngelo Branduardi(アンジェロ・ブランデュアルディ)を思い出しました。と思ってクレジットを見たら、はたしてAngeloがヴァイオリンで参加していました。曲づくりには関与しておらず、あくまでもゲスト・ミュージシャンとしての参加のようですが、Angeloらしい中近東風味のアレンジが心地よく響きます。ブックレットの裏表紙を見ると、イスラムを思わせる夕暮れの写真があったりすることから、もしかしたらある種のオリエンタリズムを意識しているのかもしれません。
かといって、アルバム全体が中近東風かというと、そういうわけではありません。カントリー風であったり、フォーク風であったり、ときに東洋風であったりと、それほどまとまりがありません。また、往年のイタリアン・プログレッシヴに通じる部分もいくらかあり、AngeloやToni Esposito(トニ・エスポジト)のゲスト参加だけでプログレッシヴ・ファンがこのアルバムを愛しているわけではないことがわかります。
あくまでもカンタウトーレ作品ですが、ほどよくシンフォニックな味つけが施されています。さらにキャバレー・ロック風な曲があるかと思えばフォーク風やプログレ風もあり、アルバム・トータルの流れとしては洗練されていませんが、こういった雑多な感じが逆に、当時のよさだったとも感じられます。
5曲目の「Per un vecchio bambino」は、ヴォーカル部分は普通のカンタウトーレ風なのに、なぜか後奏からエンディングにかけて、いかにもPink Floyd(ピンク・フロイド)フォロワーぽくなってしまいます。そこに東洋風味があるため、印象としては日本のFar East Family Band(ファー・イースト・ファミリー・バンド)に近いかも。David Gilmour(デイヴィッド・ギルモア)風の伸びやかなギターが心地よく響きます。
6曲目の「Canzone per Sergio」は、ころころとしたトイ・ピアノの音色が可愛らしい曲。なのに、ヴォーカル部分の後半からエンディングにかけては、やはりなぜかシンフォニック・ロック風になります。
そしてエンディングの7曲目「L'ultimo spettacolo」では、静かなピアノの弾き語りから入り、キーボードのオーケストレーションによる中間部で往年のイタリアン・シンフォニックの雰囲気が盛り上がります。曲後半のバンド演奏になってからは、Toni Espositoのドラムなどにイタリアらしい輝きが感じられます。