Renato Zero(レナート・ゼロ)の音楽って、とってもイタリアらしい美しいメロディと個性的なヴォーカルに、いちばんの魅力があると思います。そのメロディには世俗的な身近さがあって、この世俗っぽさが1980年代は薄っぺらな歌謡曲的になってしまっていたときもあるのですが、90年代以降はドラマティックで優美なオーケストレーションとともに、独特のやわらかさを持った馴染みやすいメロディアス・ポップスの重要な構成要素になっています。
低く落ち着いた深みのある声、映画音楽を思わせる豊かなオーケストレーションに彩られたメロディ、なだらかかつドラマティックな展開など、Renatoの魅力はいくつもありますが、このアルバムのトップに収められた「Paleobarattolo」には、こういった魅力のすべてが凝縮されていて、このアルバムに対する期待を高めます。
全部で8曲の収録曲のうち、5曲のアレンジとプロデュースをRenato ZeroとRenato Serio(レナート・セリオ)が、残りの3曲をRenato ZeroとPhil Palmer(フィル・パーマー)が行なっています。
Phil Palmerが担当したほうの曲は、ポップで、ときにコミカルなイメージさえ与えます。一方、Renato Serioが担当したほうは、よりドラマティカルで、いまのRenato Zeroにはこちらのほうが合っていそうです。Philのほうの音楽は、1970年代終わりから80年代にかけての、ミュージカル音楽的な要素が強く感じられたころのRenato Zeroを思い出させます。
Renato Serioがかかわった曲では、ゆったりとしたメロディと落ち着きのあるアレンジ、あたたかなオーケストラが聴けます。豊かなオーケストレーションは、クラシカルというよりはポップかつ映画音楽的で、たとえばRomano Musumarra(ロマーノ・ムスマッラ)などに通じるところもあるかもしれません。
アルバムとしての求心力のようなものは、あまり感じられない作品ですが、収録時間が40分弱と短いので、途中でだれることなく聴ききれます。アルバムの中間部に収録された曲にはリズミカルなものなどもありますが、映画的・演劇的なRenato Zeroの魅力を凝縮した曲をトップに、そしてエンディングにもおだやかなオーケストレーションを施したスローな曲を配置したことで、聴き終わったあとの印象は非常に落ち着いたアルバムといった感じを受けます。
名盤、傑作ということはありませんが、楽な気持ちでRenato Zeroならではの美しさを楽しめる、なかなかよいアルバムだと思います。