2000年にリリースされた前作『Tutti gli zeri del mondo』は、収録曲の半分がカバーでしたから、全部が新曲の完全なオリジナル作品としては1998年の『Amore dopo amore』以来となります。事前の噂では、オーケストラを大幅に導入した『Amore dopo amore』路線ということだったので、かなり期待してCDをプレーヤーにかけました。
アルバムのオープニング曲「Svegliatevi poeti」はだんだんに盛り上がる構成を予感させ、いよいよ『Amore dopo amore』同様のドラマティックな音世界の幕が開くことを期待させます。スケール感もあり、このまま怒涛の展開が ―― と楽しみにしていたのですが、意外とあっさりと終わってしまいました。ゆったりとしたメロディはよいのだけど、展開や構成もゆったりしていて、迫力不足です。
2曲め以降は、ここ数作の流れであるオーケストラ入りのゆったりした曲と、リズミカルで軽快な明るい曲が、ほぼ交互に配置されています。6曲目の「Nuda proprieta'」などは、1980年代の歌謡曲っぽいRenato Zero(レナート・ゼロ)を思い出しました。9曲めの「Innocente」はアコースティック・ギターの響きが美しいフォーク・タッチの曲ですが、そこにRenatoならではの特徴ある声とポップ・センスが重なり、なかなかチャーミングです。
アルバム全体の印象としては、ポップな曲の比率が高いこともあり、『Amore dopo amore』ほどの深くドラマティカルな世界はありません。リリース前の時点ではCelso Valli(チェルソ・ヴァッリ)、Ennio Morricone(エンニオ・モッリコーネ)といったビッグ・ネームの参加が話題でしたが、とりたててさわぐほどの劇的な効果を発揮しているとは感じられません。
美しい曲と軽快な曲が、ほぼ半分くらいずつ収録されていますが、なんとなく、それぞれの曲がひとつの役割しか与えられていないような印象を受けます。つまり、「この曲はロマンティック」「この曲は軽快な感じ」「この曲はドラマティック」「この曲は力強い感じ」というように、その曲が表現するべきテーマがそれぞれに与えられていて、それしか表現していないように思えるのです。
一方、『Amore dopo amore』に収録された曲は、「ロマンティックに始まり、力強く展開して、ドラマティックに終わる」といったように、1曲内で表現するものにもっと多様性があったと思います。それが、それぞれの曲の厚みやダイナミズムにつながっていました。そして、そういった「それぞれにドラマを持った曲」が次々と展開されていくことで、アルバム全体としてより大きなドラマを持った、ドラマティックかつメロディアスで迫力のあるものになっていたように感じます。最終的には、それぞれの曲自体もアルバムという大きなドラマのなかの構成要素となって、より高みへと向かっていたわけです。
その点、この『La curva dell'angelo』というアルバムに収録された曲は、曲そのものに長大なドラマや背景の奥行きを感じさせるものが、ほとんどありません。もっとシンプルなポップス作品の連なりになっています(といっても、通常のポップスにくらべれば充分にドラマティカルではあるのですが)。また、アルバム全体でのドラマを構成する要素といった役割もとくに与えられていられるようには感じられません。
そのため、小さなドラマが積み重なって全体でより大きなドラマをつくるといった厚みや複雑さがなく、アルバム作品としてのダイナミズムに欠けるのです。ドラマティックな部分はあるのだけれど、こじんまりとまとまってしまったなという印象が強く残ります。
逆にいえば、『Amore dopo amore』というのは、とんでもない傑作だったのだなということを改めて感じます。
ただ、その厚みや複雑さが、聴く人によってはうっとうしくも感じられるかもしれません。その意味でいえば、『La curva dell'angelo』はより万人向けなポピュラー作品として評価できるともいえるでしょう。