Renato Zero(レナート・ゼロ)って、個性的な歌声を持っているし、流れるような美しいメロディを書けるし、ドラマティックなオーケストラ・アレンジがされた曲も多いしで、個人的にはけっこう好きなアーティストです。
ただ彼は、ドラマティック・ポップスが得意な一方で、まるで歌謡曲のようなチープさをぷんぷんただよわせる軽〜いポップスも得意で、このチープさが自分はあまり得意じゃないんですよ。
その点で、歌謡曲っぽさのほとんどなかった1998年の『Amore dopo amore』は、曲のよさ、構成の巧みさ、はったりの効いた大仰さも含めて、やっぱり名盤だと思うんです。でも、その後のアルバムは、『Amore〜』の要素をちりばめつつも、やっぱりチープ歌謡ぽい曲の比率がけっこう高くて、いい曲は多いんだけどアルバムとしては世界に入って行ききれない印象だったんです、自分としては。
それで、今回のアルバムなんですが、これはなかなかです。『Amore〜』にくらべるとはったり加減や大仰さはないのですが、Renatoの「個人的に好きなほうの面」であるなめらかでドラマティックなポップスが多く収録されています。短いけどM1「Prendimi」とか、M4「Magari」、M8「Figlio」などにそのよさが現われていますね。
一方の「個人的にはあまり好きじゃない面」である軽いポップスも、もちろんあります。M2「Come mi vorresti」やM6「La vie」なんかがそれにあたるんだと思いますが、今回は、軽いけれどチープさがほとんどないんです。だからあんまり歌謡曲ぽくは聴こえない。いや、歌謡曲っぽさはあるんだけど、古臭さや安っぽい薄さがないんですね。これは自分にとってはかなり重要です。
M5「C'e' fame...」などは、そこはかとないチープさの上に混声合唱によるコーラスがかぶさるという離れ業(?)も聴かせてくれて、非凡さぶりをアピールしてます。M7「Naturalmente strano」でもいきなり混声合唱から入って、そこから軽めのポップスに移行していき、終盤ではシリアス系とポップスのあいだの不安定な位置で絶妙のバランスを取るという芸当を見せて(聴かせて)くれます。
この「軽さ」と「ドラマティックさ」のバランスの取り方が、このアルバムはとても優れてると思います。『Amore〜』でドラマティックに片寄ったのちのアルバムでは、これはドラマティックな曲、こっちは軽いポップスというのがはっきりしてて、その2種類を交互に配置するといったつくりだったのだけど、このアルバムでは、そのふたつの要素がおたがいのいいかたちで影響しあい、上手に取り込まれているように感じます。ドラマティックな曲はよりドラマティックに、かつ、肌触りのよい軽さ、取っ付きやすさを備え、かるい曲は「軽い」ことのよさをより際立たせ、かつ深みを加えるかたちでドラマティックな要素を取り入れてる。
『Amore〜』以来の、Renatoひさしぶりの名盤だと思います。