TITO SCHIPA JR.


IO ED IO SOLO (1974年)

   ティト・スキーパ・ジュニア / 私小説
    (WARNER MUSIC JAPAN/ARCANGELO: ARC-7144/WQCP-374 / 日本盤CD)



jacket photo
  1. SONO PASSATI I GIORNI
       過ぎ去りし日々
  2. OCCHI DEL NORD (ALCOOL)
       北側の目(アルコール)
  3. NON SIATE SOLI
       君たちは孤独じゃない
  4. IO ED IO SOLO
       そしてひとりだけ
  5. QUI LA GABBIA
       檻の中
  6. ALBERTO, UN MILLENNIO SE NE VA
       組曲:アルベルト、過ぎ去った1000年
         a. ORIGINE
           起源
         b. SEDENDO, RICORDANDO
           熟考の間
         c. NUOVO MONDO
           新しい世界
         d. VOI
           あなたがた
         e. VIENI SE VUOI: FORSE SONO IO
           欲するがままに:それは私自身


Fabio Liberatori: tastiere, moog
Nicola Di Stasio: chitarra
Roberto Gardin: chitarra, basso
Andrea Sacchi: chitarra
Mario Fales: chitarra
Shel Shapiro: chitarra
Carlo Civilletti: basso
Claudio Barbera: basso
Roberto Cimpanelli: sax
Walter Martino: batteria
Ruggero Stefani: batteria
Tito Schipa Jr.: pianoforte








自分が初めてイタリアの現役アーティストから直接メールをもらったのは、Tito Schipa Jr.(ティト・スキーパ・ジュニア)からでした。それも、こちらから出したメールに対する返事とか、マネージャーなどからの「日本で紹介してくれ・売ってくれ」といった売込みとかではなく、たまたま彼の『Orfeo 9』をPensiero! websiteで紹介しているのを見つけたらしく、自分の作品を紹介してくれてありがとう、日本語は読めないのでなにが書いてあるのかはわからないけれど、気に入ってもらえていることを願うよ... といった内容の、純粋なサンクス・メールだったのです。

Tito Jr.は売り出し中の新人などではなく、きちんとした実績と評価のあるアーティストです。しかも彼の『Concerto per un primo amore』は大好きなアルバムです。感激しましたね。すぐにメールで返事を出しました。イタリア語はわからないので、つたない英語力を駆使して。それから数回、メール交換をしたかな。

そのなかで、彼のセカンド・アルバムであるこの『Io ed io solo』がLPでは入手困難なのだけど、どうしても聴きたい、CD化の予定などはないのか、といったことをたずねたことがあります。彼の回答は、アルバムの権利はFonitにあって、自分にはどうすることもできない、彼らにその気はないようだね、実は自分のところにもカセットテープしかないんだ、といったものでした。そして、この作品の内容自体について、ところどころに優れた部分はあると思うけれど、自分にとって初めてのポップ作品で、納得のいかない部分がたくさんあるんだ、とくに自分の歌がね... というようなことをいっていました。

そんなこともあり、CD再発は難しいかなぁと思っていたのですが、まさか日本で世界初CD化されるとは。日本発のCD再発は珍しくありませんが、この作品は直接にはプログレ人脈がかかわっていません。そういうのが再発されるのは、非常にめずらしい(実際、以前に計画が出たときは「プログレ・ファンへのアピール度が足りない」という理由で実現しなかったらしい)。

作品の出来としては、Tito jr.本人がいうように、彼のデビュー作であり出世作でもあるポップ・オペラ『Orfeo 9』や、カンタウトーレとしての2枚目(通算3枚目)である『Concerto per un primo amore』のほうが完成度が高いと思います。彼にとってカンタウトーレとしての初挑戦になる『Io ed io solo』は、ポップ・オペラ的な部分とカンタウトーレ的な部分との調整がうまく取れていないようなところもあり、求心力に欠けるような印象もあります。でも、Tito jr.の繊細で、儚げで、どことなく夢見がちっぽくて、ときに不安定な心を感じさせる歌声が聴けるだけで、自分としてはもう満足だったりします。

アルバムの聴きどころは、M1「Sono passati i giorni」とM6の組曲「Alberto un millennio se ne va」でしょうか。M1では彼の作風のひとつの特徴でもある、細かいギターのアルペジオに、不用意にさわったら壊れてしまいそうなTito jr.の歌声が乗り、後半にいくに従って演奏が厚くなり舞台音楽風に盛り上がる、というスタイルになっています。M6も同様の演奏を随所にちりばめ1970年代のプログレッシヴ・カンタウトーレらしい味わいに満ちた曲で、途中にM1をモチーフにしたと思われるフレーズが挿入されるなどして印象づけられます。

他の曲は、Tito jr.のヴォーカルとバックの演奏のバランスが少し悪い感じがします。今回の再発にあたってリマスターされ、音が非常にクリアになっているのですが、それがかえってLP時代にあった「くすんだような淡く儚い美しさ」のようなものを消してしまったかもしれません。Tito jr.の声には、ちょっとバックがクリアすぎるように感じます。

また、アコースティック・ギターのアルペジオ以外のギターの使い方がうまくないな。フィルインの入れ方やフレーズ、エレキ・ギターの音づくりやコードワークが、曲の世界をつくり盛り上げるアンサンブルとして機能していない部分が多いのが残念。もし、このアルバムでもバックを『Concerto per un primo amore』と同じHorus(オールス)が担当していたなら、もっと哀愁と緊張感のバランスが取れた演奏でもっともっとTito jr.の世界を深く表現できたかもしれないなぁ。

コアなカンタウトーレ・ファン向けの作品だとは思います。日本盤で再発されたのは奇跡的だとも思います。きっと、すぐに製造中止・廃盤になってしまうでしょう。そうなる前に、唯一無二の彼の歌声が聴けるこのCDを入手できたことが幸せです。多くを望んでいいのなら、ぜひ『Concerto per un primo amore』もCD化してほしい!

(2006.07.22)







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