arrangiamenti: UMBERTO BALSAMO
parole e musiche: UMBERTO BALSAMO
ritmiche (groove): Aldo Banfi, Erik Bofat
basso: Giggi Cappellotto
chitarra: Riccardo Galardini, Claudio Bazzari, Giovanni Salvatori
flauto: Luca Avanzi
archi: Filippo Martelli
前作『Un pungo nella notte』(1992年)以来、およそ11年ぶりのニューアルバムです。それも、ベスト選曲プラス2〜3の新曲などというものではなく、ちゃんとしたオリジナルアルバム。それだけでもうれしいですね。
前作ではずいぶんポップというか、軽い感じが強かったのですが、今回の新作はUmberto Balsamo(ウンベルト・バルサモ)らしい、やさしさとあたたかさにあふれた曲が大半を占めてます。一部、現代的なエレクトリック・ポップふうのアレンジも入りますが、それが前面に出ることはなく、あくまでも味付け程度。全体におだやかで控えめなオーケストレーションが入り、『Mai piu'』(1982年)のころの作風に近いように思います。ジャケットも女性の顔で、そのへんも『Mai piu'』に通じるところを感じます。
シチリア出身のUmbertoは1942年生まれだそうですから、もう60歳を超えたんですね。若い頃から落ち着きのある声と歌い方だったので、このアルバムを聴いても歌唱的に「衰えた」という印象はありません。いくぶんザラザラした感じが強まったかもしれませんが、Renzo Zenobi(レンツォ・ゼノービ)などにも通じる、やさしく包み込むような歌声は健在です。しかし、M1〜M3の曲名を順番に並べただけというアルバムタイトルは、もう少しなんとかならなかったんでしょうか。
M1「Vorrei aprire il cielo」は、ちょっとドラムマシンやピコピコしたエレ・ポップ・アレンジが耳障りではありますが、叙情的ななかに軽やかさがある曲で、Umbertoらしさにあふれています。できれば生ストリングスを使い、もう少し落ち着いたアレンジで聴きたかったかな。うすいキーボード・オーケストレーションはなかなかいい味を出しています。
M2「Sabato sera」は生ピアノとハーモニカが導入された哀愁のある出だしで曲が始まります。このまま哀愁に満ちた曲になるのかと思うと、ヴォーカル・パートはけっこう明るい感じで、素朴なやさしさに包まれていきます。単調なドラムマシンが、曲の魅力を少しそいでいるかもしれません。
M3「Spina di Rosa」は、感じとしては「L'angelo azzurro」などに近いでしょうか。言葉数の多い歌詞をミディアム・テンポのメロディに、少し字あまり気味に詰め込んでいくような歌です。楽しげな感じがする曲で、ピッコロ(?)のかわいらしい音色もよく合っています。
M4「Nessun'altra」でもドラムマシンの単調な使い方に不満は残りますが、曲自体はおおらかなやわらかさがあり、軽やかなギターのカッティングやピアノのフィルインなど、都会的な洒落たセンスも持ち合わせています。ほどよく叙情性もあります。
M5「Ritornelli」もM3と同傾向のタイプでしょうか。こういう感じって、中期のFabrizio De Andre'(ファブリツィオ・デ・アンドレ)にも少し似ている気がします。メロディはけっこうなめらかなのに言葉があまりなめらかにつながらない感じが、個人的には味わいがあっていいなぁなどと感じてしまいます。明るい感じと哀愁がほどよいバランスで共存しているのも好ましいです。
M6「Pensieri di una sera」は始まり方からして、やわらかな叙情にあふれています。うすいオーケストレーション、アコースティック・ギターの金属的かつ暖かみのあるフィルイン、チャカポコとかわいらしいパーカッション、それらがUmbertoのやさしいヴォーカルをそっと盛りたてます。地味だけど、Umbertoらしい魅力を持った曲だと思います。
M7「Madonna Luna」でも肩のちからの抜けた感じが心地よいです。ゆったりとしたシャッフル・ビートが、明るい光とゆるやかな時間を感じる素朴なイタリアの街角を思い起こさせます。エレキ・ギターの丸いクリーントーンが印象的です。
M8「Ti pensero'」も明るいイタリアの街を思い起こさせます。自分の印象では、M7は海からは遠い内陸の街なのですが、このM8は海に程近い街といった感じです。シャカシャカしたリズム楽器がどこか、波の音を思わせるからでしょうか。やわらかなメロディラインとアコースティック・ギターの艶のある音色、夕暮れが近いことを告げるようなうすいオーケストレーションが心地よいです。
M9「Una palla di pezza」は前半のベースラインが「Stand By Me」みたいです。ゆるやかで無理のないメロディ展開と構成、要所で入るパンフルート、やわらかなピアノのアルペジオ、でしゃばらないオーケストレーションなど、地味だけど安心して聴いていられます。
M10「Chi mi innamorera'」は少しジャジーな雰囲気を持ったスロー・バラード。Pino Daniele(ピーノ・ダニエーレ)やNino Buonocore(ニーノ・ブオノコーレ)よりもずっとゆるい感じがUmbertoのおだやかなヴォーカルに合っていて、リラックした気分になります。
M11「E tu... l'amuri」もゆるやかなメロディを持ったバラードで、ヒューマンヴォイスを少し混ぜたオーケストレーションも使われ、おだやかなアルバムを締めくくるにふさわしいものとなっています。
全体に、これといって特筆すべき曲はないし、地味だし、ゆっくりした曲ばかりだしで、飽きちゃったり楽しめなかったりという人も少なくなさそうなアルバムですが、それがUmbertoの作風でもありますし、Umbertoのファンであればきっと愛情を持って聴ける作品でしょう。前作の『Un pungo nella notte』、前々作の『Respirando la notte luna』(1990年)よりは、このアルバムのほうがUmbertoの魅力をより表現しているし、作品としてのクオリティも高いと思います。