produced and arranged by Matthe Fisher
Geoff Swettenham: drums
Mick Hawksworth: bass
strings and brass selected by David Katz,
conducted by Del Newman
Matthew Fisher(マシュー・フィッシャー)のソロ・デヴュー作。若い人はMatthewのことを知らないかもしれませんね。自分らくらいの世代の人ならほとんど誰でも知ってるだろうと思われるProcol Harum(プロコル・ハルム)の超名曲「青い影(A Whiter Shade of Pale)」で印象的なハモンド・オルガンを弾いてた人です。Procol Harumには2枚目くらいまで在籍し、その後、ソロに転向しました。
「青い影」は世界中にProcol Harum=クラシカルといったイメージを植え付けちゃいましたが、じつはProcol Harumってそれほどクラシカル・クラシカルなグループじゃありません。意外といなたい世俗感が魅力だったりします。とすると、クラシカルなアイデンティティはMatthewが担ってたのかなぁと思い、このソロ・デヴュー作をある種の期待を持って聴いたのですが、出てきたのは「小粒なProcol Harum」でした。
ハモンド・オルガンはあいかわらず魅力的な音色で響いています。でも、導入比率はあまり高くありません。全体にリラックスした、ちょっとひなびた、いうなれば「疲れたおじさん」風なある種の色気?がイギリスらしい趣をともなって響きます。そもそもファースト・アルバムなのに「旅の終わり」なんていうタイトルをつけるあたり、なんだかお疲れって感じです。
古いブリティッシュな響きは、自分にはとても心地よいのですが、あまりにも小粒かなぁ。Procol Harumを思わせるところがところどころにあるのですが、Gary Brooker(ゲイリー・ブルッカー)の味わい深いヴォーカルにくらべるとMatthewの歌はひ弱だし、せっかく盛り上がりそうな展開になっても盛り上がりきれない。Procol Harumだったらさらにもう一段の盛り上がりでドラマティックに演出するのに、って思ってしまいます。
おだやかで、あたたかで、やさしくて、いい作品だとは思うんですよ、こじんまりとしてて。でも、なんていうのかな、瞬発力? それが足りない。演奏にも、曲の構成や展開にも、そして歌にも。静かな曲、おだやかな曲でも、そのなかで「ここは!」ってところには一気に気持ちを高めたりしないと、ただだらだらと静かなままで終わっちゃうじゃないですか。その「一気に」を可能にするのが瞬発力だと思うんですけど、それが弱いんですよね。だから、牧歌的なままで通り過ぎてしまいます。田園風景がずっと続く電車の窓から外を眺めているように。それは、気持ちよくはあるのだけど、気持ちよすぎて眠くもなってしまいます。そんな印象のアルバムでした。