produced by Chris Thomas
Gary Brokker: piano, vocal
Barrie Wilson: drums, percussion
Alan Cartwright: bass
Mick Grabham: guitars
Chris Copping: organ
Procol Harum(プロコル・ハルム)の8枚目のアルバム。前作が彼らの最高作との呼び声も高い『Grand Hotel』で、ここではオーケストラやコーラスを導入してクラシカルな雰囲気を強く出そうという意識が見えましたが、続くこのアルバムではもっとリラックスして、もともとの彼らの持ち味である世俗的でいなたい、だけどイギリス風味たっぷりのロックが中心になっています。もともと「ロック・ソング・アルバムに立ち戻ろう」という掛け声のもと制作が進められたそうなので、当然ですね。
M1「Nothing but the Truth」はおなじみのピアノとオルガンをバックにしたロックン・ロール。力強くも味わい深いGary Brooker(ゲイリー・ブルッカー)のヴォーカルが楽しめます。控えめに使われるエレキ・ギターとオーケストラもいい感じ。なんということのないロックン・ロールでありながらも、大英帝国的な、ヨーロッパ的な香りが醸し出されてしまうところが魅力的です。
M2「Beyond the Pale」はいっそうヨーロッパぽいピアノ・ロック。古い街角楽師風の寂れた哀愁がうっすらと漂います。
M3「As Strong As Samson」ではオルガンのバックを中心にミドル・テンポのロックを演奏しています。やっていることはどうということのない地味なものなのだけど、なぜかやたらと派手に聴こえるアレンジが懐かしい感じです。なめらかなメロディ・ラインに乗るヴォーカルにはひなびた哀愁があり、いかにも英国風。イギリス風というよりも、英国風と表現したい感じ、なんとなくわかるでしょうか。歌メロの途中まではマイナー・コードで来るのだけど、最後はメジャーで終わるのが好ましいです。
M4「The Idol」もピアノのバックを中心にしたProcol Harumらしい英国の雰囲気たっぷりなロック。どことなく田園風なのんびりとした香りのするGaryのヴォーカルをクラシカルなオルガンがサポートし、一瞬ゴスペル風な匂いもさせつつも、あくまで世俗っぽい、パブなどで聴けそうな感じを残しているのが、いかにも彼ら風。
M5「The Thin Edge of the Wedge」はここまでの雰囲気とずいぶん違った曲。ピアノ、ギター、オルガンを中心に、動き回るベースがうっすらとブルースやジャズの風味を見え隠れさせ、いなたい怪しさ満載です。古い探偵ものドラマのバックなどに似合いそう。
M6「Monsieur R. Monde」ではピアノとディストーション・ギターを中心にした少し粘りのあるロックを聴かせてくれます。1970年代初頭のロックの香りですね。CCRの「スージーQ」とかにも通じる曲想でしょうか。
M7「Fresh Fruit」はミディアム・スローののんびりとしたブルース・ロック。マリンバの導入や、犬の吠え声のものまね?なども入り、なんだか楽しげです。
M8「Butterfly Boys」はピアノを中心にしたパブっぽいロック。後半のブルージーなギターがいい味わいを出しています。
M9「New Lamps for Old」はオルガンをメインにしたのんびりとおだやかな曲。ときどき入るギターのフィルインが世俗っぽさを加えます。こののんびり感がとても英国風ですが、彼らの醸しだすのんびり感は、田園風というよりは、やっぱり夜の酒場風。
M10「Drunk Again」は... おっと、最寄り駅についてしまいました。時間切れです。この曲についてはいずれ追加しましょう。
全体的に、Procol Harumの音楽としかいいようのない曲ばかりが収録されています。ほんのりクラシカルで、だけどエレガンスというよりは世俗っぽい身近さがたっぷりで、イメージの中にある古いヨーロッパのパブにあるような、ひなびた哀愁と他愛のない楽しみがゆるゆると漂っているような、そんな音楽。とくにアルバム後半は「青い影 (A Whiter Shade of Pale)」とはだいぶ雰囲気の違う、Procol Harumらしい、いなたい系英国ロックになっています。その点で、アートな雰囲気のあるジャケットとはイメージが違いますね。ほどよく力が抜けた愛すべき作品だと思います。