PROCOL HARUM


A SALTY DOG (1969年)

   プロコル・ハルム / ア・ソルティ・ドッグ
    (WESTSIDE: WESM 534 / イギリス盤CD)



jacket photo
  1. A SALTY DOG
  2. THE MILK OF HUMAN KINDNESS
  3. TOO MUCH BETWEEN US
  4. THE DEVIL CAME FROM KANSAS
  5. BOREDOM
  6. JUICY JOHN PINK
  7. WRECK OF THE HESPERUS
  8. ALL THIS AND MORE
  9. CRUCIFICTION LANE
  10. PILGRIMS'S PROGRESS
  11. LONG GONE GEEK
  12. ALL THIS AND MORE (Take 1)
  13. THE MILK OF HUMAN KINDNESS (Take 1)
  14. PILGRIM'S PROGRESS (Take 1)
  15. McGREGGOR
  16. STILL THERE'LL BE MORE (Take 8)


produced by Matthew Fisher

Gary Brooker: keyboards, vocal
Matthew Fisher: organ
Dave Knight: bass
Robin Trower: guitar
B.J.Wilson: drums
Keith Reid: lyrics








Procol Harum(プロコル・ハルム)のサード・アルバムで、彼らの初期のサウンドを彩った、枯れた音色のオルガンを弾くMatthew Fisher(マシュー・フィッシャー)が在籍した最後の作品。一般に、彼らのアルバムのなかでも名作のひとつといわれています。

アルバム・タイトルになっている「ソルティ・ドッグ」といえば、ウォッカをグレープフルーツ・ジュースで割って、ふちに塩をつけたグラスに注ぐカクテルが有名ですが、その一方で、船の甲板で働く水夫という意味もあるのだそうです。イギリスのスラングらしいですが、甲板で働く水夫は汗だらけ塩だらけになるので、その様子から「塩だらけの犬」という呼び名がついたのだとか。

Procol Harumのこのアルバムは、ジャケットに海と浮き輪、そして水夫のイラストがあることからも、ウォッカではなく、水夫の意味での「ソルティ・ドッグ」のようです。そんなジャケットのイメージから無理なくつながるM1「A Salty Dog」は、やはり名曲でしょう。かもめの鳴き声で始まり、かもめの鳴き声で終わります。たおやかでゆったりとしたオーケストラも導入されます。のんびりとした気品。派手に盛り上がることなく、淡々とした美しさ。非常に英国的な優雅さを感じます。まるで映画のワンシーンを眺めているようです。ただ、いわゆるProcol Harumらしさとは、ちょっと違う感じがします。

しかしM2「The Milk of Human Kindness」ではオルガンも鳴っていますが、ホンキートンク調のピアノといなたいエレキ・ギターが入り、Procol Harumらしい感じが出てきます。クラシカル・エレガントではないほうの彼らの個性である「大衆酒場のロック」風な演奏が楽しめます。

M3「Too Much Between Us」は英国フォーク調のおだやかな曲。アコースティック・ギターのやわらかなコード・ストロークと、うっすらと鳴っているオルガンが心地よいです。

M4「The Devil Came from Kansas」は、スローだけど派手な感じのロック。60年代後半から70年代の香りがたっぷりです。ギターもいなたく響きます。どことなくゆるいヴォーカルと、それにかぶさる、やはりあまりかっちりとはしていないコーラスが、古い酒場のお客がみんなで合唱している風でいい感じです。ただ、この「酒場」は、イギリスというよりはアメリカのイメージかな。

M5「Boredom」は可愛らしいフォーク・ロック。リコーダーや鈴、木琴なども入り、楽しげです。イギリスの、プログレ風味のあるフォーク・ロック・グループのアルバムとかに入ってそうな曲調ですね。

M6「Juicy John Pink」はとてもわかりやすいブルース。Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)の再来といわれていたこともあるらしいRobin Trower(ロビン・トロワー)が書いた曲です。ジミヘン風のギターとハーモニカをバックに、いなたいヴォーカルが聴けます。

M7「Wreck of the Hesperus」は、ころころとしたピアノのアルペジオで始まります。後半ではオーケストラが入って盛り上がり、最後は嵐のSEで終わるという、プログレッシヴ・ロック風のドラマティックな構成を持っていますが、曲そのものはどこか可愛らしく、愛らしいのが素敵です。

M8「All This and More」、ほどよくいなたく、ほどよく世俗的で、なんだかバタバタしてて、だけど英国的哀愁も漂うという、ある意味でとてもProcol Harumらしい感じの曲。サビのあたりのメロディが、いかにもProcol Harumです。

M9「Curcifiction Lane」はスローな8分の6拍子のロッカ・バラード。ブルージーなギターと熱いヴォーカルがとても70年代風。M6と並んで、Procol Harumのイメージと、ちょっと違うなと思ったら、これもRobin Trowerの書いた曲でした。

アルバムの最後を飾るM10「Pilgrim's Progress」は、おそらく彼ら自身が「A Whiter Shade of Pale (青い影)」を意識したんじゃないかと思います。Matthew Fisherの奏でるオルガンの響きとクラシカルなコード進行を活かした曲。でも「A Whiter Shade of Pale」よりもずっとのんびりと、のほほんとした感じです。陰の「A Whiter Shade of Pale」に対して、どちらかというと陽の「Pilgrim's Progress」といった印象でしょうか。おだやかで暖かな雰囲気があり、ヴォーカルも素直なポップス風です。

このあと、CDにはボーナストラックが6曲くらい入ってます。

というわけで、個々の曲はそれぞれに可愛らしく、愛らしく、それぞれの魅力を持っていたりするのですが、アルバムとしての求心力というか、ドラマ性というかは、ちょっと薄い感じです。よい曲もあるし、アルバムとしての出来も悪くはないのだけど、あまり「Procol Harum」を感じない。曲調が拡散気味なのと、ヴォーカルが持ち回りなのと、アメリカ的な香りがあちこちに紛れ込んでいることが、自分の持っている彼らに対するイメージと、ちょっと違うのかもしれません。自分としてはやはり、イギリスの気品と世俗っぽさがごた混ぜになったような雰囲気を、彼らに望みたいのだな。その点で、自分の好みからすると、このアルバムはちょっと残念な内容でした。

(2008.4.20)







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