produced by Matthew Fisher
Gary Brooker: keyboards, vocal
Matthew Fisher: organ
Dave Knight: bass
Robin Trower: guitar
B.J.Wilson: drums
Keith Reid: lyrics
Procol Harum(プロコル・ハルム)のサード・アルバムで、彼らの初期のサウンドを彩った、枯れた音色のオルガンを弾くMatthew Fisher(マシュー・フィッシャー)が在籍した最後の作品。一般に、彼らのアルバムのなかでも名作のひとつといわれています。
アルバム・タイトルになっている「ソルティ・ドッグ」といえば、ウォッカをグレープフルーツ・ジュースで割って、ふちに塩をつけたグラスに注ぐカクテルが有名ですが、その一方で、船の甲板で働く水夫という意味もあるのだそうです。イギリスのスラングらしいですが、甲板で働く水夫は汗だらけ塩だらけになるので、その様子から「塩だらけの犬」という呼び名がついたのだとか。
Procol Harumのこのアルバムは、ジャケットに海と浮き輪、そして水夫のイラストがあることからも、ウォッカではなく、水夫の意味での「ソルティ・ドッグ」のようです。そんなジャケットのイメージから無理なくつながるM1「A Salty Dog」は、やはり名曲でしょう。かもめの鳴き声で始まり、かもめの鳴き声で終わります。たおやかでゆったりとしたオーケストラも導入されます。のんびりとした気品。派手に盛り上がることなく、淡々とした美しさ。非常に英国的な優雅さを感じます。まるで映画のワンシーンを眺めているようです。ただ、いわゆるProcol Harumらしさとは、ちょっと違う感じがします。
しかしM2「The Milk of Human Kindness」ではオルガンも鳴っていますが、ホンキートンク調のピアノといなたいエレキ・ギターが入り、Procol Harumらしい感じが出てきます。クラシカル・エレガントではないほうの彼らの個性である「大衆酒場のロック」風な演奏が楽しめます。
M3「Too Much Between Us」は英国フォーク調のおだやかな曲。アコースティック・ギターのやわらかなコード・ストロークと、うっすらと鳴っているオルガンが心地よいです。
M4「The Devil Came from Kansas」は、スローだけど派手な感じのロック。60年代後半から70年代の香りがたっぷりです。ギターもいなたく響きます。どことなくゆるいヴォーカルと、それにかぶさる、やはりあまりかっちりとはしていないコーラスが、古い酒場のお客がみんなで合唱している風でいい感じです。ただ、この「酒場」は、イギリスというよりはアメリカのイメージかな。
M5「Boredom」は可愛らしいフォーク・ロック。リコーダーや鈴、木琴なども入り、楽しげです。イギリスの、プログレ風味のあるフォーク・ロック・グループのアルバムとかに入ってそうな曲調ですね。
M6「Juicy John Pink」はとてもわかりやすいブルース。Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)の再来といわれていたこともあるらしいRobin Trower(ロビン・トロワー)が書いた曲です。ジミヘン風のギターとハーモニカをバックに、いなたいヴォーカルが聴けます。
M7「Wreck of the Hesperus」は、ころころとしたピアノのアルペジオで始まります。後半ではオーケストラが入って盛り上がり、最後は嵐のSEで終わるという、プログレッシヴ・ロック風のドラマティックな構成を持っていますが、曲そのものはどこか可愛らしく、愛らしいのが素敵です。
M8「All This and More」、ほどよくいなたく、ほどよく世俗的で、なんだかバタバタしてて、だけど英国的哀愁も漂うという、ある意味でとてもProcol Harumらしい感じの曲。サビのあたりのメロディが、いかにもProcol Harumです。
M9「Curcifiction Lane」はスローな8分の6拍子のロッカ・バラード。ブルージーなギターと熱いヴォーカルがとても70年代風。M6と並んで、Procol Harumのイメージと、ちょっと違うなと思ったら、これもRobin Trowerの書いた曲でした。
アルバムの最後を飾るM10「Pilgrim's Progress」は、おそらく彼ら自身が「A Whiter Shade of Pale (青い影)」を意識したんじゃないかと思います。Matthew Fisherの奏でるオルガンの響きとクラシカルなコード進行を活かした曲。でも「A Whiter Shade of Pale」よりもずっとのんびりと、のほほんとした感じです。陰の「A Whiter Shade of Pale」に対して、どちらかというと陽の「Pilgrim's Progress」といった印象でしょうか。おだやかで暖かな雰囲気があり、ヴォーカルも素直なポップス風です。
このあと、CDにはボーナストラックが6曲くらい入ってます。
というわけで、個々の曲はそれぞれに可愛らしく、愛らしく、それぞれの魅力を持っていたりするのですが、アルバムとしての求心力というか、ドラマ性というかは、ちょっと薄い感じです。よい曲もあるし、アルバムとしての出来も悪くはないのだけど、あまり「Procol Harum」を感じない。曲調が拡散気味なのと、ヴォーカルが持ち回りなのと、アメリカ的な香りがあちこちに紛れ込んでいることが、自分の持っている彼らに対するイメージと、ちょっと違うのかもしれません。自分としてはやはり、イギリスの気品と世俗っぽさがごた混ぜになったような雰囲気を、彼らに望みたいのだな。その点で、自分の好みからすると、このアルバムはちょっと残念な内容でした。