自分はもともとPink Floyd(ピンク・フロイド)が好きです。高校1年のときに『The Dark Side of The Moon』を聴いて衝撃を受け、そのままプログレッシヴ・ロック、ユーロ・ロックにはまり込み、いろいろあって、いまは主にイタリアン・ポップスのファンになっているわけですが、こうした「売れ線じゃない」「アメリカやイギリスや日本のヒットチャートと関係ない」マニアック(と多くの方が呼ぶ)な音楽ファンの道への入り口となったのがPink Floydなもので、やはりちょっと特別な感情を抱いてしまいます。
Pink Floydの名作というと、一般的にはやはり『The Dark Side of The Moon』であり、コアなファンには『Atom Heart Mother』だったり『Meddle』だったり『Wish You Were Here』だったり『The Wall』だったりもするのですが、もちろんこれらのアルバムも大好きだけど、じつは自分は多くのファンが「いまいち」という『The Final Cut』がかなり好きだったりします。
リリースされた当時、『The Final Cut』について「本来は3枚組になるはずだった『The Wall』を、商業面を考えて2枚組に圧縮した際にあぶれてしまった、いわば『The Wall』のアウトテイク集」といった評価をした音楽誌・評論家があったような記憶があります。たしかにある意味、『The Final Cut』に収録された曲は『The Wall』に入りきれなかった断片なのかもしれません。しかしこのアルバムには、短い断片断片に高い集中力と緊張感が注ぎ込まれていて、ある意味でかなり聴きごたえのある、「聴くこと」を要求する作品だと思うんです。
ただ、この作品が「Pink Floydの音楽」かというと、やはり性格としては「Rogerの音楽」なわけで、けっきょく自分はRogerのつくる曲とRogerのヴォーカルが好きなんでしょう。なので、ソロになってからのRogerのキャリアから構成されたこのベスト盤(といっていいのかな?)も、やはりしっくりきます。
じつは、ソロになってからのRogerのアルバムってあまり聴いたことがなく、ちょっとだけ聴いた感じでは妙にアメリカっぽい明るさと軽さを持っているものがあったりして、やはりRogerにはDavid Giumour(デイヴィッド・ギルモア)やPink Floydというグループが必要なのかなとも感じていたのですが、このCDを聴くと、RogerはやっぱりRogerでした。
意図的にそういう曲を集めたのかどうかは知りませんが、ここには『The Final Cut』と同じ「歌」があります。ただ、ときにメロウに、ときに鋭く切り込んでくるDavidのエモーショナルなギターがないのがやはり残念だし、物足りなくも感じます。Rogerが抜けたあとのPink Floydの音楽には大きな喪失感を覚えましたが、このCDで聴ける「RogerしかいないPink Floyd」にも、失ったものの質感や意味合いは違うけれど、やはり喪失感を感じます。ここにPink Floydの「歌」があるだけに、それがいっそう寂しいというのは、Rogerのファンにとっては失礼なのでしょうけれど。