VARIOUS ARTISTS


SANREMO 2000 (2000年)

   サンレモ2000
    (WARNER FONIT 8573 82256-2 / イタリア盤CD)



jacket photo   1: REPLY / SAMUELE BERSANI
  2: IL GIORNO DELL'INDIPENDENZA / ALICE
  3: LA TUA RAGAZZA SEMPRE / IRENE GRANDI
  4: BRIVIDO CALDO / MATIA BAZAR
  5: FARE L'AMORE / MIETTA
  6: NON DIRGLI MAI / GIGI D'ALESSIO
  7: UN'ALTRA VITA / UMBERTO TOZZI
  8: CON IL TUO NOME / SPAGNA
  9: RACCONTAMI DI TE / MARCO MASINI
 10: CRONACA / LUNA
 11: NUTRIENTE / MOLTHENI
 12: LA CANZONE DEL PERDONO / ANDREA MIRO'
 13: UOMO DAVVERO / LAURA FALCINELLI
 14: OGNUNO PER SE'/ ERREDIEFFE
 15: NOEL / LYTHIUM
 16: NON CI PIOVE / JOE BARBIERI
 17: UN GIORNO SENZA FINE / FABRIZIO MORO
 18: NORD-EST / ANDREA MAZZACAVALLO







 2000年に行なわれた第50回サンレモ音楽祭の参加曲を集めたオムニバス盤。この回のサンレモ・オムニバスCDは2種類がリリースされていて、ワーナー・フォニットによる1枚もののこの盤と、EMIによる2枚組があります。
 ただ、EMIのほうは2枚組とはいっても、そのうちの1枚はイタリア以外の国からゲストで出場したアーティストの曲を集めたもので、第50回サンレモに参加したイタリアン・アーティストの曲を収録したのは1枚だけ。だったらイタリアン・アーティストだけを収録した2枚組を1セットだけ出してくれればいいのにと思うのは、自分だけではないでしょう。なんとなくEMI盤は抱き合わせ販売のような感じがして、ちょっと気分が悪いです。

 そのへんの感情を差し引いても、全体的な収録曲のよさという点で、自分はワーナー・フォニットによる1枚もののこの盤のほうが気に入ってます。

 Samuele Bersani(サムエーレ・ベルサーニ)の曲は穏やかなヨーロッパの夕暮れを感じさせるような、おとなしいバラード。ロマンティストの青年を思わせる優しく、ちょっと甘い歌声は、決して個性的というわけではありませんが、イタリアらしい美しさを楽しめます。

 Alice(アリーチェ)は最初、Franco Battiato(フランコ・バッティアート)の曲で参加といわれていましたが、実際はBattiatoファミリーのカンタウトーレ、Roberto Juri Camisasca(ロベルト・ユリ・カミサスカ)の曲での参加となりました。低く落ち着いたなかにも独特の芯の強さがあるAliceの声が存分に活かされた、どことなくエキゾチシズムの感じられる曲です。
 Battiatoファミリーだけあって、ありきたりのオーソドックスなポップスにはならない、なにか引っかかるような感じがあります。

 Irene Grandi(イレーネ・グランディ)は、自分はいままで、あまり聴いたことがなかったのですが、この曲はいいです。パワフルだけど雑にならない、張りのあるロック・ヴォーカルが聴けます。それでいて、若い女性らしいキュートさもあります。
 イタリアで非常に人気のあるロック・シンガー、Vasco Rossi(ヴァスコ・ロッシ)が曲を提供していますが、サビのところのメロディ回しの美しさにはゾクゾクしてしまいます。Ireneの明るさと表情のあるヴォーカルが、メロディの美しさを決して殺すことなく、かっこよく、力強く、そしてメロディアスなロックとしての魅力を引き出します。

 Matia Bazar(マティア・バザール)はヴォーカリストがLaura Valente(ラウラ・ヴァレンテ)からSilvia Mezzanotte(シルヴィア・メッツァノッテ)に代わり、またオリジナル・メンバーでEros Ramazzotti(エロス・ラマゾッティ)のプロデューサーとしても知られるPiero Cassano(ピエロ・カッサーノ)が復帰するという、新しいメンバーでの参加となりました。
 ヴォーカルのSilviaは、Lauraよりもパワーの面で弱い感じはしますが、それが逆に繊細でロマンティックな感じを強めています。曲もPieroの影響か、初期のユーロ・ポップス的なMatia Bazarのころの感じがし、Silviaの声・歌い方にあっているといえるでしょう。

 Mietta(ミエッタ)の曲は「Fare l'amore」(英語に訳すと「make love」)という非常にあけすけなタイトルで、ちょっと恥ずかしいです。ただ、そういった露骨な曲名のわりには、曲自体はとくに激しさやパッショネイトなところはなく、かといってロマンティックだったり、あるいは猥雑だったりかというとそうでもなく、意外と普通のものです。ヴォーカルもこれといった個性に弱く、あまり印象に残りませんでした。曲はMango(マンゴ)が提供していますが、Mango本人が歌えば、もう少し感じが出たように思います。
 Miettaは、うまいといえばうまいヴォーカリストなのかもしれませんが、10人並という感じがします。

 ナポリ・センセーションとも呼ばれたGigi D'Alessio(ジジ・ダレッシオ)は、このサンレモ出場で一気にブレイクしました。それまで、地元ナポリでは大人気だったものの、全国的な知名度はそれほどでもなかったGigiですが、サンレモ音楽祭終了後にリリースされたサンレモ参加曲収録の各アーティストのCDのなかでいちばんの売れ行きを示し、多くのイタリア人がGigiのようなオーソドックスだけど、まさにイタリアらしい美しいメロディを持った曲を欲していたことが証明されました。
 このサンレモ参加曲は、それまでのGigiの曲のなかでもかなり洗練された、哀愁味たっぷりのバラードです。音づくりやアレンジ、録音に至るまで、これまでよりも充分な時間とお金がかけられているように感じます。本当は、彼はもう少し洗練されていない曲で、明るさとポップさを持った曲のほうがらしさが出ているように自分には思えるのですけどね。

 Umberto Tozzi(ウンベルト・トッツィ)はさすがヴェテランらしく、自分の世界というものが確立しています。この曲もUmbertoらしい明るさとポップさにあふれ、味のあるしわがれ声でほのかな哀愁を交えながら、柔らかく伸びやかなバラードを聴かせてくれます。
 しわがれ声ヴォーカリストのなかでもUmbertoの場合、暑苦しさがないのが特色といえるでしょう。そして洗練されたポップ・センスを持っています。そういったUmbertoらしさが感じられる曲ではないでしょうか。目新しさはありませんが、安心して聴けます。

 Spagna(スパーニャ)のこの曲は、まるでAmedeo Minghi(アメデオ・ミンギ)のような、非常に雄大な感じがします。どことなくトラッド系シンガーを思わせる、ちょっと特徴のある声が、冷たい空気に覆われた広大な台地の果てにまで届くような、東洋風の異国情緒を感じさせるゆったりとしたメロディに乗るところは、心を揺さぶります。
 ヴォーカリストとしての技術は決して高くないと思いますが、「唄」を感じさせるシンガーです。

 Marco Masini(マルコ・マジーニ)もすっかりヴェテランになり、自分の世界が確立しています。どちらかというと暑苦しいしわがれ声で、密度の濃い感じのバラードを情感たっぷりに歌い上げるという、Marcoらしさがよく現われた曲でしょう。若いときにくらべるといくぶん暑苦しさが後退し、多少はさりげなく歌えるようにもなったようですが。
 この人の場合も目新しさはありませんが、多分こんな感じの曲だろうという聴き手の期待を裏切らない安心感があります。

 Luna(ルーナ)は細くて高い声の女性シンガーですが、基本的に歌はあまりうまくないんじゃないかと思います。声量もあまりないし。本人もそれを認識してるんじゃないかな。ただ、歌はうまくないけれど、歌に表情をつけるのがとてもうまいと感じます。基本的な歌における力のなさをカバーするために、感情を自分の歌に乗せること、それが聞き手に伝わるように歌うことをたくさん練習してきたシンガーなのではないでしょうか。そしてそれは、よい結果をもたらしているように思います。
 Claudio Mattone(クラウディオ・マットーネ)という才能あるメロディ・メーカーが提供した曲ということもあり、そこはかとなく南イタリアの輝きを感じさせる、メロディ展開と構成に優れたバラードですが、Lunaはそれを自分のものとして表現することに成功しています。

 Moltheni(モルテーニ)の曲は軽やかなギターのストロークがさわやかさを感じさせるポップ・ロック。明るく少し粘り気のある曲想ですが、メロディの流れやキーボードのアレンジの柔らかいあたたかさは、やはりイタリア的といえるでしょう。あまり個性の強さは感じませんが、聴きやすいグループではないでしょうか。

 Andrea Miro'(アンドレア・ミロー)は、Andreaという名前なのに、なぜか女性です。この人もMoltheniなどと同じように、軽やかでさわやかなポップ・ロックを聴かせてくれます。個性は強くありませんが、声には張りがあって、堂々とした歌声を披露しています。
 曲は自身とE.Ruggeriとなってますが、Enrico Ruggeri(エンリコ・ルッジェーリ)のことかな。

 Laura Falcinelli(ラウラ・ファルチネッリ)の曲は、いなたい感じのフォーク・ロック。3曲目に収録されているIrene Grandiを思いっきり小粒にしたような印象を受けました。そこそこ歌はうまいけど、声にも歌い方にもこれといった個性がありません。曲も自分でつくっているわけではないようですし、このまま音楽界に生き残っていけるのでしょうか。

 Erredieffe(エッレディエッフェ)は女性3人組らしいです。アメリカのソウル系女性コーラス・グループのような、自分にとって、もっとも興味がないタイプの音楽です。イタリアである必要を感じないし、曲のなかにイタリアの感性も感じないし。コピーの域を出ていないように思います。

 Lythium(リティウム)は、もしかしたらPiccola Orchestra Avion Travel(ピッコラ・オルケストラ・アヴィオン・トラヴェル)を意識しているのではないでしょうか。アコーディオンやストリングスを多用したこの曲は、Avion Travelをいくぶんハードにし、ロマンティックさを少し後退させたような、そんな印象があります。
 この曲だけではわかりませんが、もしかしたら、アルバムはアーティスティックな感性にあふれたロックを展開しているかもしれないという期待を抱かせます。

 Joe Barbieri(ジョエ・バルビエリ)の曲は、明るく乾いた感じと小気味よいリズムが心地よい、さわやかなポップス。少し高めの澄んだ声をしており、アメリカのアダルト・コンテンポラリーなどを歌わせてもうまそうです。

 Fabrizio Moro(ファブリツィオ・モーロ)は新人ですが、しわがれ声に美しいメロディとドラマティックな展開を持った、いかにもカンタウトーレ・イタリアーナといった感じがします。厚みのあるオーケストラ・アレンジとロマンティックなダミ声ヴォーカルは、どことなくRoberto Soffici(ロベルト・ソッフィーチ)を思い出させました。

 Andrea Mazzacavallo(アンドレア・マッツァカヴァッロ)の曲は、粘りのあるエレクトリック・ギターとシャカシャカとしたアコースティック・ギターの音が気持ちよく、どことなく南国リゾートを感じさせます。少しファルセットが交じり気味のヴォーカルも、リゾート気分を強めます。
 イタリア的かというと、それほどでもないように思うのですが、曲や歌い方に特徴があり、なんとなく心引かれてしまいます。

 全体的に、このオムニバスに収録されている曲はどれも、メロディのよいもの、メロディを大切にしたものが多いように感じます。そして、さまざまな美しいメロディを聴けることこそが、リズム主体になってしまった英米や日本のポップスとは違う、イタリアン・ポップスを聴く楽しみなんです。

(2000.05.14)








Musica

Pensiero! -- la Stanza di MOA

(C)MOA

inserted by FC2 system