こちらはRCA / BMG Ricordiによるオムニバス盤。ビッグ部門・新人部門とも優勝曲はUniversal盤に取られてしまい、これといって目玉となる曲がないのですが、収録曲すべてが2001年のサンレモ参加曲であるところが、参加曲以外の収録が多かったUniversal盤にくらべて好感度が高いです。
■ Giorgia - Di sole e d'azzurro
ビッグ部門準優勝。
技術的にはうまいヴォーカリストだと思います。思いますが、それ以外の部分、アーティストとしてのGiorgia(ジォルジァ)本人の気持ちっていうのが、なんか伝わってこない気がするのはなぜでしょうか。本当だったらもっと声も出せるのであろうに、想いを目いっぱい歌声に乗せて歌うよりも、音楽として「うまそうに聴こえる」ことにポイントを置いているような感じがしてしまいます。
■ Michele Zarrillo - L'acrobata
1998年の来日公演が懐かしいMichele Zarrillo(ミケーレ・ザッリッロ)は、ビッグ部門の4位に入りました。
あいかわらずのひび割れた優しい声で、ゆったりとしたメロディのバラードを歌っています。そして、あいかわらず、声にも曲にも、Micheleならではの強い個性といったものが感じられません。歌も曲づくりも、それなりに上手なんですが、これぞMicheleといった個性の弱さは、いまもなおっていないようです。耳ざわりはいいし、なんとなくいい曲なんだけど、あまり心に残らないんです。
■ Paola Turci - Saluto l'inverno
ビッグ部門5位。楽曲にはCarmen Consoli(カルメン・コンソーリ)もかかわっています。
Paola Turci(パオラ・トゥルチ)は大地にしっかり足をつけたような、どっしりとした歌声で、力強いロックを歌っています。広域に少しリミッターのかかったようなPaolaの声はキンキンした騒がしさがなく、それが歌に奥行きを与えていると思います。ただ、曲自体は、メロディも展開も、またバックの演奏にも、これといって魅きつけるものがなく、ありがちな感じのものだと思います。
■ Gigi D'Alessio - Tu che ne sai
ビッグ部門8位。
2000年のサンレモ音楽祭初出場で一気にナポリ・ローカルのスターからイタリア全土のスターになった感じのするGigi D'Alessio(ジジ・ダレッシオ)ですが、それにつれて曲のほうは、だんだんとつまらなくなっているように感じます。哀愁に満ちた美しいメロディ、それをサポートするおだやかなオーケストレーション、哀愁のなかにどこか明るい光を感じさせる丸い声など、ある意味では文句の付けようのない完璧なイタリアン・ポップスともいえるのですが、完璧すぎるがゆえに、Gigiならではのクセや個性といったものが薄まってきてしまい、おもしろみが少ないのです。より演奏は豪華になり、曲はソフィスティケイトされ、一般的な評価は上がるかもしれませんが。
■ Anna Oxa - L'eterno movimento
ビッグ部門10位ですが、もっと上位でもよかったのではないかという意見が強いようです。
ヴェテランならではの表現力あるヴォーカルが魅力的です。曲はどことなくオリエンタルな雰囲気があります。とくに印象的なメロディやアレンジはないのですが、歌声自体に魅きつけるちからがあるので、飽きずに聴けます。
■ Bluvertigo - L'assenzio (the power of nothing)
ビッグ部門で参加しましたが、順位的には最下位でした。
イギリスのニューウェーヴ的な雰囲気が感じられるロック・グループです。意外とポップで人懐っこいメロディを持っていて、そのあたりでもブリティッシュ・ポップ的な印象を受けます。
■ Matia Bazar - Questa nostra grande storia d'amore
ビッグ部門3位。
新歌姫Silvia Mezzanotte(シルヴィア・メッツァノッテ)を加えて初の参加だった2000年のサンレモでは、8位と振るいませんでした。2年目のSilviaはすっかりグループになれたのか、伸び伸びと歌っています。Antonella Ruggiero(アントネッラ・ルッジェーロ)の亡霊からも逃れつつあるのか、Silviaらしさというのも出てきたように思います。Matia Bazar(マティア・バザール)らしい緩急の豊かな構成が楽しめ、またSilviaの歌もそれに余裕を持ってついて来れるようになっています。
■ Sottotono - Mezze verita'
ビッグ部門14位。
リズムが重視されたデジタル・ロックです。このグループもイギリスのニューロマンティックやニューウェーヴなどといった、古い時代のロックに似た雰囲気を持っているように思います。あまりイタリアのアイデンティティは感じられません。
■ Syria - Fantasticamenteamore
ビッグ部門13位。曲はBiagio Antonacci(ビアージォ・アントナッチ)が提供しています。
古い歌謡曲のようなオーケストラ・アレンジによるイントロがちょっと可愛らしいです。曲自体はナチュラルなギターのトーンを生かした明るいロックで、これといってどうといったことのないものですが、中間部でも古い感じのオーケストラが入ってきて、なんとなく飽きさせない構成になっているように思います。
少しかすれ気味の声は、ロック的というよりは媚びた感じで、個人的にはまったく魅かれません。歌もヘタだし。
■ Peppino Di Capri - Piovera' (Habibi Ane)
大ヴェテランPeppino Di Capri(ペッピーノ・ディ・カプリ)のひさしぶりの参加で、古くからのイタリアン・ポップス・ファンの間で期待されましたが、順位は11と振るいませんでした。
明るい色彩となだらかなメロディを持ったオーソドックスなポップスで、Peppinoの少し枯れた感じの優しい歌声とともに、どうといったことはない安心感のようなものがあります。最後のほうでアラブっぽいアレンジが入ってきたりしますが、あまり意味はないように思います。
■ Paolo Meneguzzi - Ed io non ci sto piu'
新人部門7位。
普通のロック・カンタウトーレだと思います。ちょっと喉になにか詰まったかのような声には粘り気があり、この声を上手に使っていけば彼ならではの世界を表現するのに役立ちそうな気はしますが、現時点では曲調のありきたりさも手伝って、これといった個性にはなっていません。
■ Pincapallina - Quando io
新人部門15位。
こういった、可愛らしい、アイドル的な曲と歌い方は苦手です。歌メロ自体はそれなりになだらかな流れを持っていますが、いかにもつくられた感じです。曲のよさやアーティストとしての力量はまったく関係のないタイプの音楽のように感じます。
■ Moses - Maggie
新人部門準優勝。
なんとなく曲調が「My Way」を思い起こさせる気がするのは自分だけでしょうか。ちょっとクセのあるかすれ声は味わいがあり、抑えて歌うところ、しっかりと声を出すところのメリハリもあり、なかなかいい感じです。曲もミドルテンポながら、押しと引きがあって、単調でないところが好感が持てます。
■ Stefano Ligi - Battiti
新人部門13位。
こちらも少しクセのあるかすれ声です。ただ、歌はあまりうまくないし、曲もあまり印象に残るところがなく、これといって強く訴えかけてくるところがありません。元気なだけの曲といったところでしょうか。
■ Xense - Luna
新人部門9位。
なんとなく演劇的な雰囲気を持った曲は、他の新人たちにくらべるとポテンシャルを感じさせます。ただ、それを上手に活かすだけの方法論をまだ身につけていないというか、発展途上にいる感じを受けます。アイデアはあるのに、技術その他が追いついていないといった感じでしょうか。
とくにヴォーカリストは、もっと精進すべきでしょう。こういった曲想では、演者としてのヴォーカリストの力量が強く要求されるからです。
■ Riky Anelli - Ho vinto un viaggio
新人部門14位。
軽やかで元気のいいギター・ロックが聴けます。明るく嫌味のないヴォーカルは、個性は弱いですが、楽しんで聴くポップスのシンガーとしては充分だと思います。ただ、歌も曲も、非常に平均的、標準的で、飛びぬけたものが感じられないため、ありがちだなぁという印象はぬぐえません。
■ Carlito - Emily
新人部門8位。最優秀作詞賞受賞曲ですが、自分はイタリア語がわからないので、どんなことが歌われているのかはわかりません。
ゆったりとした広がりのあるメロディは、魅力があるといえばありますが、もう少し展開できたのではないか、構成次第でさらに魅力が出せたのではないかという意識が先に立ちます。よさそうな要素は持っているのに、楽曲の詰めが甘いんです。だから、単調で平凡な曲になってしまっています。また、その曲をどうすることもできないヴォーカルの力量のなさも残念です。
■ Principe e Socio M - Targato na
新人部門4位。
広場で遊ぶ子供たちを眺めているような、楽しげな曲調が魅力的です。アコーディオンのチープな音も、まるでいたずらっ子のようなはにかんだ笑顔を思わせます。ただ、曲の構成やメロディが単純なため、楽曲として単調になってしまい、1分も聴けば飽きてしまいます。
■ Isola Song - Grazie
新人部門最下位。
下品な感じのする男性ヴォーカルは、好き嫌いが分かれそうです。演奏的にはバグパイプ風な音が入っていたりと、工夫も見られますし、歌メロも意外となだらかで綺麗だったりします。しかしやはり、古いイギリスのポップス/ロックのパクリ的な印象があり、アイデンティティをあまり感じないのが残念です。うまく伸びていけば、意外といいグループになりそうな感じもあるのですが。
■ Sara 6 - Bocca
新人部門11位。
ソウルフルな女性ヴォーカルを前面に出しています。曲の感じもアメリカのソウル系ポップスに近いといえるでしょう。イタリアのアイデンティティはあまり感じられません。歌はなかなかうまいし、メロディもまあまあだと思います。ところどころにイタリアっぽいフレーズ、歌い回しが出てくるので、完全にアメリカのコピーとはなっていないところは評価できるでしょう。
このCDを聴いてみても、ストレートに、シンプルに、曲のよさや歌のうまさが伝わってくるものがほとんどないのが非常に残念です。サンレモ参加曲が不作だっただけでなく、ヴェテラン、新人を含めて、アーティスト全体の能力の低下を感じてしまいます。