CD1:
CD2:
コロムビアからリリースされた2枚組のコンピレーション。全29曲収録のうちサンレモ参加曲以外は2曲だけという、イタリアン・ポップス・ファンにとってはうれしいというか、良心的な内容になっています。
2002年のサンレモ音楽祭には、ビッグ部門・新人部門あわせて36組のエントリーがありましたが、そのうちの27曲がこの2枚組に収録されています。要するに、主要なところはほとんどこちらの2枚組で聴けるというわけです。新人部門優勝者のAnna Tatangelo(アンナ・タタンジェロ)が収録されていないのが残念ではありますが。
以下に、それぞれの曲の印象を記します。Anastacia(アナスタシア)とDestiny's Child(デスティニーズ・チャイルド)はゲストなので省きます。
GINO PAOLI "UN ALTRO AMORE"
ビッグ部門3位。やわらかいガット・ギターの音とおだやかなオーケストレーションが心和みます。あいかわらずのやさしい声も魅力的です。
曲のタイプとしてはオーソドックスなカンツォーネ・イタリアーナのスロー・バラードといったところでしょうか。メロディも展開も奇をてらったところがなく、とっても普通。その普通なところに安心感があります。でも、ある意味、退屈かも。
MICHELE ZARRILLO "GLI ANGELI"
ビッグ部門11位。Michele Zarrillo(ミケーレ・ザッリッロ)らしい、ちょっと都会的な雰囲気を持ったやわらかなポップスです。
彼の曲って、悪くはないんだけど、これといって印象に残らないような傾向があると思うのですが、この曲もそういう部分はあるかも。歌メロにはずいぶん工夫をしたような印象を受けるのですが、それが印象的かというと、そうでもないような。
こういった、ドラマを感じさせる系のスローな曲よりも、もっと勢いのあるタイプの曲のほうが、彼には合っているように思うのは自分だけでしょうか。歌いこむ曲を聴かせるには、彼のヴォーカルは弱いと感じます。
ALEXIA "DIMMI COME..."
ビッグ部門2位。昔のレコードをかけたときのようなスクラッチ・ノイズで始まる曲。ハーモニカなども入り、いなたいカントリー&ウェスタン系になるのかと思ったら、めっちゃファンキーな曲でした。とてもアメリカンで元気と力強さのあるソウル・ミュージック。自分の苦手なタイプの音楽です。イタリアらしさはありませんね。
ALESSANDRO SAFINA "DEL PERDUTO AMORE"
ビッグ部門15位。Andrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)系の、クラシックの発声でポップスを歌う人ですが、この曲はもうひとつだなぁ。ポップスとしても、クラシック系の音楽としても、どことなくつくりが中途半端。音楽主体で聴かせるのではなく、たとえば映画の挿入歌などのように、別の部分に主体があって、それをサポートするための音楽であればこのくらいでもいいのかもしれませんが。妙に大仰な感じも取ってつけたくさくて、素直にこちらに届きません。すでにリリースされているアルバムのほうがぜんぜんいいです。
FAUSTO LEALI - LUISA CORNA "ORA CHE HO BISOGNO DI TE"
ビッグ部門4位。Fausto Leali(ファウスト・レアーリ)のダミ声はあいかわらず魅力的です。力強いひび割れのなかに美しさがあります。メロディも、ちょっとだけアメリカの大作映画テーマ曲風のあざとさもありますが、全体にFaustoのバラードらしい、おおらかななめらかさがあります。
Luisa Corna(ルイーザ・コルナ)という人は知らないのですが、低めでちからのある声で、Faustoとのコーラスでも負けていません。歌唱力はあると思いますが、とくに個性があるということもなく、普通にうまい女声シンガーだと思いますが、Faustoと組むことで声の対比が楽しめ、彼女がソロで歌うよりも魅力を出せたのではないでしょうか。
DANIELE SILVESTRI "SALIRO'"
ビッグ部門12位。大都会の街角に流れるニューウェーヴがかったロック……かな。ベースやドラムはハウスっぽいっていうか(よくわからないんですが)、テクノっぽいっていうか、ディスコっぽいっていうか。重いけど弾んだ感じのリズミックなポップ・ロックです。
イタリアというよりは、ビリヤード台やジュークボックスなどの置いてあるアメリカの酒場で夜に聴く音楽という印象なのですが、どうでしょう。
ENRICO RUGGERI "PRIMAVERA A SARAJEVO"
ビッグ部門5位。これはちょっとおもしろいです。ビッグ・バンドで演奏する古いカンツォーネ・ナポレターナのような曲。ぶんちゃっぶんちゃっと奏でられるピアノ、ぶんぶんいうウッドベース、ひなびたヴァイオリンや安っぽいブラス……よき時代の大衆歌を思わせます。
Enrico Ruggeri(エンリコ・ルッジェーリ)って、ふだんはこんなタイプの曲を歌う人ではなかったと思うのですが。
PATTY PRAVO "L'IMMENSO"
ビッグ部門16位。大きな太陽が沈みゆく広いサバンナに響き渡るような、壮大な大地を感じさせるような曲。Patty Pravo(パッティ・プラーヴォ)の低く太い声はあいかわらず恐いですが、力強さのなかに包み込むようなやさしさも感じられます。
展開次第ではもっと壮大に、大きなスケールを持った曲になりそうなのですが、残念なことに構成がけっこう平凡なため、盛り上がりきれずに終わってしまいます。単体として聴くより、テーマを持ったアルバムのなかで聴いたほうがよさそうな感じがします。
NINO D'ANGELO "MARI'"
ビッグ部門15位。1999年にはじめてサンレモ音楽祭に出て以来、なんかエスニック風味の違う方向に行きだしてしまった感のあるNino D'Angelo(ニーノ・ダンジェロ)ですが、今回もやはりエスニックな感じがします。でも、以前よりはナポレターナに戻ってきたかな。土着の音楽を思わせるメロディとアレンジに、少しこもった感じの声がなかなかいい感じにマッチしていると思います。
FIORDALISO "ACCIDENTI A TE"
ビッグ部門9位。かすれた声が魅力的な女声シンガー。自分はこの人のことを知らなかったのですが、活動歴は長く、以前はけっこう人気があったんだそうです。
ピアノの演奏をメインに、語るように歌うスロー・バラード。こういう曲は、個性と表現力のあるシンガーでないと聴いててつらいことが多いのですが、Fiordaliso(フィオルダリーゾ)は充分に聴かせるだけのちからを持っています。少しうらぶれた感じの哀しみと美しさがあり、ドラマティックでもあります。夜とお酒がお供になりそうな音楽。
MINO REITANO "LA MIA CANZONE"
ビッグ部門18位。スケール感のある歌い方をする、とてもオーソドックスなカンツォーネ歌手。声量があり、迫力もあり、歌唱力もあり、だけど繊細さがたりなくて、歌いっぱなしな感じがするところも、とてもオーソドックス。
この曲も、そういったMino Reitano(ミーノ・レイターノ)らしさが存分に感じられるスロー・バラード。歌い方次第ではもっとドラマティックになりそうなのだけど、ドラマティックになる前に暑苦しくなってしまうのは、やっぱり繊細さがないからでしょうか。全編を通して同じくらいのちからで歌ってしまっているため、サビでの高揚感が得られません。そこもまた、とてもオーソドックスなカンツォーネ的ではありますが。
LOLLIPOP "BATTE FORTE"
ビッグ部門19位。音楽とは関係ないけど、グループ名が気に入らない。曲もありがちなガール・ポップ。イタリアな感じはなく、アメリカやイギリスあたりの小娘たちがやってそうなもの。とくにかわいらしさがあるわけでも、あるいは強さやしたたかさがあるわけでもない、どこが売りなのかよくわからないグループ。ちょっと小生意気そうな感じはするけど、それが売りなのかな。自分の苦手なタイプのグループだし音楽です。
MARIELLA NAVA "IL CUORE MIO"
ビッグ部門6位。キーボードのアレンジが空間と奥行きをつくっていますが、ヴォーカルが少しキーボードに負けてる気がします。それと、アレンジのところどころにちょっと奇妙な不協和音が混じってるような感じがして、なんとなく気持ちが悪いです。
言葉数の多いヴォーカル・ラインは少しせわしないです。サビでゆったりとした言葉数になるので、その対比でドラマを感じさせるという効果はあるようですが、その落差をMariella Nava(マリエッラ・ナーヴァ)は上手に活かしきれていない気もします。
う〜ん、なんか変な曲。
MATIA BAZAR "MESSAGGIO D'AMORE"
ビッグ部門優勝。ちからの抜けた感じのポップス。Silvia Mezzanotte(シルヴィア・メッツァノッテ)のヴォーカルもかわいらしく歌っています。ポップで、おしゃれで、暖かで、なめらかで、いつものMatia Bazar(マティア・バザール)らしい音楽だといえるでしょう。
でも、Silviaにはもっと声を出してほしいというか、声を出す曲を歌ってほしいです。彼女は、もっともっと歌えるはず。この曲では彼女の喉の強さを感じさせる部分が少なくて残念です。最近のMatia Bazarの傾向といえばそうなのだけど、ちょっとポップすぎるかもしれません。
LA SINTESI "HO MANGIATO LA MIA RAGAZZA"
新人部門選外。ちょっとチープでノスタルジックな音色のシンセサイザーのイントロで始まる曲。ゆったりとしたメロディ、ピアノの透明な響きと広がりのあるアレンジ、合間に割り込んでくるおもちゃのオルガンのような音など、独特の雰囲気があります。
いま風であり、むかし風であり、イギリス風であり、イタリア風であり、なかなか味わいがある曲でした。けっこういいグループに育つのかも。
GIULIODORME "ODORE"
新人部門選外。乾いた音のスネア・ドラムと歪んだエレキ・ギター、ゴトゴトしたリズムなど、タイプとしてはいわゆるパンク/ニューウェーヴ系のロックといえるのでしょう。タイトルの「Odore」は匂いとか香りといった意味の単語ですが、曲自体から匂い立つようなものは感じません。意外と普通の、1980年代くらいからあるロックだと思います。
DANIELE VIT "NON FINIRA'"
新人部門10位。ソウルっぽいヴォーカルのスローな曲。コーラスの入り方やオーケストレーションその他のアレンジも、いわゆるスローなR&B風。
こういう曲はヴォーカリストに高い力量が要求されると思うのですが、この人(それともグループなのかな?)は特別うまいというわけではありません。青いというか、淡白というか、残念ながら歌からはそれほど「ソウル(魂)」が見えてきません。もう少し頑張ってもらいましょう。
SIMONE PATRIZI "SE POI MI CHIAMI"
新人部門3位。Simone(シモーネ)という名前なので女性かと思っていたのですが、聞こえてきた声は男性のもので、ちょっとびっくり。
アコースティック・ギターのやわらかな響きとおだやかなアレンジ、ほんの少しだけかすれた声など、イタリアン・ポップスらしい趣を持った曲だと思います。取り立ててよいということはないのだけど、安心して聴けます。これで歌にもっと個性があればなぁ。
PLASTICO "FRUSCIO"
新人部門選外。LPレコードのスクラッチ・ノイズから始まる曲。こういった曲はノスタルジックな感じのものが多いのですが、この曲もふわふわした感じのなかに1970年代風のノスタルジーが漂っているように思います。なんとなく、どこかで聴いたことのあるようなメロディやアレンジがあって、目新しさはないのだけれど、それなりに楽しめるとはいえます。
ただ、このグループも女性ヴォーカリストに個性があまりなく、印象が平凡になってしまっているように思います。
ARCHINUE' "LA MARCIA DEI SANTI"
新人部門5位。カントリー・タッチの曲。最近の新人にはめずらしいのではないでしょうか。こういったタイプの曲はメロディそのものを楽しむという感じではないので、歌詞の聞き取れない自分には少しばかしきついのですが、それでも陽気なフィドルやバンジョーの響きなどには楽しい気分になってきます。
ただ、ここもヴォーカルが弱いというか、平凡です。もう少し味のあるヴォーカルだと、より楽しい感じになると思うのですが。
GIACOMO CELENTANO "YOU AND ME"
新人部門選外。軽いタッチのエレキ・ギターのストローク、リズム・マシーンの機械的な音、明るい印象など、1990年代以降の若いカンタウトーレっぽい曲。イタリアの大スター、Adriano Celentano(アドリアーノ・チェレンターノ)の息子らしいです。でも、彼がお父さんほどの人気者になれるかというと、どうでしょうか。
曲も平凡だし、歌も平凡。なんとなく上手にまとめてあるけれど、ポピュラー・ミュージックとしての魅力が伝わってきません。もっともっと精進してもらわないと。
OFFSIDE "QUANDO UNA RAGAZZA C'E'"
新人部門選外。クセのあるヴォーカルは、ほんのちょっとだけEros Ramazzotti(エロス・ラマッゾッティ)などを思い起こさせるかも(?)。
曲自体は単純な展開の平凡な曲だと思うのですが、歌に少し個性があるので、あまり飽きずに聴けます。それぞれのメロディもまずまずのイタリアン・テイストがあって好ましいです。これでもう少し、曲の展開のなかでの起伏等がはっきりしていれば、もっとよかったのではないかな。
BOTERO "SIAMO TRENI"
新人部門8位。ピアノとチェロ(?)による、なんとなくシリアスな場面を思わせるイントロから、抑えた男性ヴォーカルへとつながる展開は、これからのドラマを感じさせ、ひきつけられます。でも、それをきちんとドラマとして展開させていくだけの力量は、このグループにはまだないようです。
途中でかぶる女性ヴォーカルともども、ヴォーカリストの表現力が低すぎ。演奏や展開にもドラマ性がなく、思わせぶりなままで終わってしまいます。
ANDREA FEBO "ALL'INFINITO"
新人部門9位。明るい印象となめらかなメロディを持ったミディアム・テンポのポップス。安っぽいキーボードのアルペジオと機械的なリズム・マシーンの音が自分にとっては耳ざわりですが、最近の曲ではしかたがないのかな。単調なメロディと構成、平凡なヴォーカルで、普通にポップな曲でした。
DUAL GANG "SARA' LA PRIMAVERA"
新人部門選外。1950年代や60年代を少し思わせる、なんとなくコミカルな印象のある曲。言葉数の多いヴォーカル・ライン、ほのぼのとしたミュート・ギターのアルペジオ、ドタドタした感じのリズム・セクションなど、古きよき時代の楽しい音楽を感じさせます。
とくによいというわけではないのだけど、むかしのアメリカの青春映画などに出てくるパーティなどでかかっていたら楽しそう。
78 BIT "FOTOGRAFIA"
新人部門6位。1970年代ころのブリティッシュ・ポップスの雰囲気を持ったスローな曲。こういう曲はずるいです。ノスタルジックで、やさしくて、心に染みてしまいます。たいした曲じゃないはずだし、ヴォーカルも普通だし、メロディだって特筆するところはないはずなのですが、多感だったころに心に染み付いた音楽を思い起こさせてしまうからでしょう。
MARCO MORANDI "CHE NE SO"
新人部門7位。Gianni Morandi(ジァンニ・モランディ)の息子らしいです。少しだけかすれた感じの声で抑えめに歌うヴォーカルは、イタリアによくあるタイプともいえるのですが、それなりに魅力です。スローな曲ですが、それほど飽きさせることなく聴けるので、まずまず合格といったところでしょうか。バックの演奏が大きすぎて、ちょっとヴォーカルが負けてしまっているところがありますが、今後の精進で歌にもっと存在感がつけばそういうこともなくなるのでしょう。