EMIからリリースされた1枚もののサンレモ・コンピレーション。参加曲の美味しいところはあらかたコロンビアからの2枚組に持っていかれてしまったせいもあってか、かなり寂しい選曲です。というか、全17曲も収録されていながら、サンレモ参加曲が6曲しか入っていない!
『Sanremo 2002』とタイトルにうたっておきながら、これはひどいです。考え方としてはFestivalbar(フェスティヴァルバール)のコンピレーション盤などと同じなのかもしれませんが、イタリア以外の曲で購買をあげようという魂胆が見え見え。こんなの、サンレモ・コンピレーションじゃないじゃん!
というわけで、かなり腹立たしい内容ですが、売りどころとしてはやはり、新人部門優勝者のAnna Tatangelo(アンナ・タタンジェロ)と2位のValentina Giovagnini(ヴァレンティナ・ジォヴァニーニ)、それに1999年のナポリ音楽祭優勝者であるGianni Fiorellino(ジァンニ・フィオレッリーノ)が収録されていることでしょうか。
ちなみに、2002年の参加者のうち、Filippa Giordano(フィリッパ・ジョルダーノ)、Gazosa(ガゾーサ)、Loredana Berte'(ロレダーナ・ベルテ)の3組は、2枚組のコロンビア盤にも、このEMI盤にも収録されていません。権利等の問題なのかもしれませんが、収録曲の2/3を参加曲以外の曲にするよりは、その年の参加曲をきちんと漏れなく収録してほしいもんです。
以下に、サンレモ参加曲に限って、それぞれの曲の印象を記します。
GIANLUCA GRIGNANI "LACRIME DALLA LUNA"
ビッグ部門14位。以前の彼はずいぶんロック色が強かったように感じますが、最近はメロウなバラード系が好きなようです。この曲もミディアム・スローなテンポのメロウなロック・バラード。傾向としては2000年にリリースされたアルバム『Sdriato su una nuvola』の流れを踏襲しているといえるでしょう。
GIANNI FIORELLINO "RICOMINCEREI"
新人部門4位。このサンレモ音楽祭には新人部門で参加してますが、じつは1999年のナポリ音楽祭優勝者で、その優勝曲「Girasole」を含むアルバムもとっくにリリースしてますし、またアレンジャーとして新人のアルバムにいくつも関わるなど、ナポリではそれなりに名の知れた人。
2000年のサンレモ音楽祭に出場して「ナポリ・ショック」と呼ばれ、その後イタリア全土的に有名になったGigi D'Alessio(ジジ・ダレッシォ)の、ちょうどサンレモ音楽祭出場前のころに印象が似ているかもしれません。ほどよく洗練されていて、それでいて南イタリアっぽい哀愁もあります。
洗練されすぎた最近のGigi D'Alessioや、1999年にはじめてサンレモ音楽祭に出場してからなんかエスニック風味になってしまったNino D'Angelo(ニーノ・ダンジェロ)より、いまはGianniのほうがナポリ・ポップスとしての魅力があるのではないでしょうか。
TIMORIA "CASAMIA"
ビッグ部門20位(最下位)。活動歴の長いロック・グループのようですが、自分はアルバムを聴いたことがありません。
きめの粗いザラザラした太い音のエレキ・ギターがかっこよくもあり、かっこ悪くもあり。1960年代から70年代にかけてのロック・ミュージックぽい印象があるミディアム・テンポの曲です。ギターの音もそうですが、キーボードやストリングスの音も古きよき時代のアート・ロックを思わせる感じがします。
個人的には懐かしい感じがして嫌いじゃないのですが、いまどき受けないだろうなという気はします。だから最下位なのか。
ANNA TATANGELO "DOPPIAMENTE FRAGILI"
新人部門優勝。まだ15歳らしいです。それなのに、ちょっと色っぽい歌い方をします。日本のこのくらいの年齢の女性歌手のような、子供子供した感じはありません。元気さもあるのだけど、「元気いっぱいだよ! イエーイ」みたいな軽さはなく、なんか貫禄があります。
この曲は正統的なイタリアン・ポップスで、アコースティック・ギターの音色が耳に残る落ち着いた感じのもの。それを存分に歌いきっています。歌うまいかも。
VALENTINA GIOVAGNINI "IL PASSO SILENZIOSO DELLA NEVE"
新人部門2位。いったい何十年前の録音だ?と思わせるどこどこしたドラムで始まる曲。ベースもぶんぶんいってます。けっこう低音に重さがある演奏だけど、ヴォーカルの声は明るく響きます。
この人は何歳なのか知りませんが、やっぱりちょっと色気があります。明るさと強さのなかにほんの少し甘えた感じがうかがえる歌い方は、どことなくBlondie(ブロンディ)のDeborah Harry(デボラ・ハリー)を思わせるかも。
FRANCESCO RENGA "TRACCE DI TE"
ビッグ部門8位。ソロになる前はTimoria(ティモリア)のヴォーカリストだったらしいです。ロック・ヴォーカリストとしてのキャリアが長いこともあって、歌唱力があります。ちょっとクセのあるヴィブラートは好みを分けそうですが、伸びやかな声には存在感があり、声量も充分です。
この曲はスローなロック・バラードですが、単調になることなく聞かせるだけの表現力を持っています。けっこうドラマティックです。