***< 2008.04.12 >*****************************************************

★ Opus Avantraの夜 ―― April 12, 2008 - 川崎クラブ・チッタ

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★★★ Opus Avantraの夜 ―― April 19, 2008‐川崎クラブ・チッタ ★★★
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Opus Avantra(オプス・アヴァントラ)。イタリアのプログレッシヴ・ロック界
が生んだ至宝。1974年にリリースされたデビュー・アルバム『Introspezione』
は芸術と世俗、伝統と革新、叙情性と攻撃性、その他もろもろの対立要素が絶
妙なバランスの上に配置され構築された奇跡のような作品でした。その奇跡を
生み出したグループが、奇跡の創出から34年を経て、初めて日本にやってきた
のです。しかも、たった一夜限りの公演。観ないわけにはいきません。

ふだんは600席くらいのキャパシティがある川崎のクラブ・チッタですが、こ
の日は限定300席。ふだんの半分です。そのため、空間の広い非常にゆったり
とした座席配置になっていました。この時点ですでに、いつものライヴ・コン
サートとは趣が違います。

開演は18時。オープン前のテープとアナウンスに続き、『Introspezione』の1
曲目「Introspezione」が始まります。非常に即興演奏色の強いアヴァン・ギ
ャルドなピアノ。でも、ステージ上で演奏してない。これもテープでした。あ
れれ?

ところで、彼らのファースト・アルバムって最近では『Introspezione』とい
うタイトルで通っていますが、もともとのLPの背にはたしかOpus Avantraとい
うグループ名しか入っていなかったというように記憶しています。だからむか
しは「Opus Avantraのファースト・アルバム」もしくは「Opus Avantraという
アルバム」と呼んでいたように思うのだけど、いつのまにアルバム1曲目の曲
名である「Introspezione」がアルバムそのもののタイトルになったのでしょ
うか?

それはともかく、本編が始まってもいきなりテープで拍子抜けしましたが、リ
リカルなピアノ・パートからはステージ上での実際の演奏が始まりました。そ
して、いまだステージに現われぬDonella Del Monaco(ドネッラ・デル・モナ
コ)の歌声がスピーカーから聴こえはじめ、しばらくしてステージ左の袖から
Donellaが歌いながら登場。

Donella、でかい。

むかしのオペラ歌手のように体積のある体つきのおばちゃんになっていました。
イタリアン・プログレ界で太ったオペラ歌手のように巨体の美声ヴォーカリス
トといえばBanco del Mutuo Soccorso(バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ)
のFrancesco Di Giacomo(フランチェスコ・ディ・ジァコモ)というのが以前は
プログレ・ファンのあいだでの共通認識だったはずですが、考えを改めねばな
りません。たぶん、いまのDonellaのほうがいまのFrancescoよりも大きいんじ
ゃないでしょうか。

Donellaが登場し、Opus Avantraのメンバーがステージ上に揃ったあとは、よ
どみなく演奏が進みました。いわゆるプログレのライヴ・コンサートと大きく
趣を異にするのは、アンコール時の簡単なメンバー紹介のとき以外、ただの1
度もMCが入らなかったこと。ステージ構成の一部としての詩の朗読? モノロ
ーグはありましたが、それと歌以外の「声」がステージ上には一切なかったの
です。

思うに、Opus Avantraのステージは「コンサート」ではなく、「ミュージック
・パフォーミング・アート」とでも呼ぶべきなのでしょう。とくに2時間の公
演のうちの前半約1時間はアルバム『Introspezione』の再現となっていて、ア
ルバム収録順に曲が演奏されます。

『Introspezione』の素晴らしいところは、個々の曲にあるのではなく、ああ
いった音の組み合わせを持った「単位」としての曲があの順番に配置されたこ
と、その「単位」の流れが心と頭を揺さぶるように組み合わされていたことに
あります。「Il pavone」のように単体として美しい名曲もありますが、本来
の「Il pavone」の役割は『Introspezione』という作品全体の中であの位置に
配置されることだと思うのです。この曲も作品全体のなかのひとつの要素、ひ
とつの「単位」として扱われることで、作品全体の魅力度が高まるのです。

その意味で、ステージ上でも『Introspezione』が収録順そのままに演奏され
たのは正解だと思います。ただ、観客側には「ステージで展開される
『Introspezione』を堪能する準備」ができていなかったかもしれません。つ
い、ふつうのコンサートと同じ気分で、1曲終わるごとに拍手をしたくなって
しまうし、してしまう。そこで『Introspezione』の流れが分断されてしまう。
『Introspezione』を構成する曲は、いわゆる「曲」ではなく、
『Introspezione』という作品の一要素です。クラシックでいうなら楽章みた
いなものかもしれません。それを理解し、『Introspezione』の最初から最後
まで流れを止めることなく演奏させてあげられたなら、もっと堪能できたかも
しれません。

ステージ上には美しい女性4人のストリングス・クァルテットがいて、その音
色やヴィジュアル(プラチナ・ブロンドのヴァイオリニストがめちゃめちゃ綺
麗だった)で魅了してくれるだけでなく、曲によっては演奏しながらステージ
の中央まで出てきてダンス?や、Donellaを相手にちょっとした演技?を見せ
てくれます。このアクションが、なんというか非常に古い感じ。アングラ演劇
ぽいというか、むかしの映画に出てくるドラッグ服用による幻想シーンのよう
な印象でした。

後半のステージではセカンド・アルバム以降の作品から何曲かずつピック・ア
ップして演奏されました。個人的にはセカンドから「Flowers on Pride」が演
奏されたのが非常に嬉しい感じです。途中、Alfredo Tisocco(アルフレド・テ
ィゾッコ)のピアノ・ソロ曲で激しい眠気が襲ってきたのはきっと花粉症の薬
を飲んでいたせいだということにしておきますが、全体に満足のいくステージ
でした。

ちょっと残念だったのは、Donella Del Monaco。もともとこの人、ヴォーカリ
ストとしてはそんなにうまくないと思うのですが(Donella信者からの反感を一
気に集めそう...)、アルバムから想像していた以上にうまくなかった。もちろ
んクラシックの素養もあるようなので、そこらの中途半端なポップス系ヴォー
カリストよりはうまいのですが、地声での歌唱は声量が足りないし音程も少し
ふらつき気味、ファルセットでのオペラ唱法ではさすがに声量たっぷりですが、
意外と表現力がなくて一本調子。残念ながら、衰えを感じました。サビだけフ
ァルセットの「Il pavone」もなんだか変な感じ。オリジナルはずっと地声な
のに、なぜああいうかたちにしたのでしょうか。地声の高音が出なくなっちゃ
ったのかな。いっそ全編ファルセットで歌ってもらえたら、それはそれで新し
い魅力があったかもしれないのに。

Opus AvantraというグループにとってDonellaが重要な役割を持っていること
はわかるけれど、その役割はグループのコンセプトとか楽曲のアイデアといっ
たところに抑えたほうがいいのかもしれません。それを「歌」で表現するシン
ガー/ヴォーカリストとしての役割は、もっと歌える人にまかせたほうがいい
のかも。Donellaのヴォーカルってこれまでも、Opus Avantraというグループ
の中でOpus Avantraの作品を歌っているときしか自分には強い魅力を感じられ
なかったのだけど、ステージ上のDonellaは、Opus Avantraに囲まれてOpus 
Avantraの作品を歌っているにもかかわらず、あの奇跡ともいえる作品を生み
出した伝説の歌姫ではなく、舞台の上ではしゃぎまわるちょっと歌のうまい中
年のおばちゃんに見えてしまいました。

また、ライヴなのでしかたがありませんが、緩急の落差がスタジオ収録にくら
べてつけにくいため、もともとの楽曲が持っていた急激な場面転換やドラマ性
といったものが薄まっていたように思います。同じ楽曲でも、スタジオ作とは
別のものとして楽しんだほうがよさそうです。もちろん、力強いOpus Avantra
も、それはそれとして悪くありませんし、ステージングも含めてライブならで
はの躍動感が楽しめました。そして、なんだかんだいってもけっきょく本編お
よびアンコールで歌われた「Il pavone」に涙がこみあげてきてしまう自分だ
ったりもするのでした。

おそらく、1970年代当時のOpus Avantraとくらべたら、精神的な、そして音楽
的な密度はかなり低くなっているのだろうと思います。それでもやはり、観に
きてよかった。きっと再来日はないだろうことを除いても、観ておいてよかっ
た。そんな、Opus Avantraの夜でした。


■4月12日の演奏曲目■

 0. Viaggio Immaginario(SE)
 1. Introspezione
 2. Les Plaisirs Sont Doux
 3. La Marmellata
 4. L'Altalena
 5. Monologo
 6. Il Pavone
 7. Ah, Douleur
 8. Deliee
 9. Oro
10. Rituale
11. Sloth
12. Gluttony
13. Flowers On Pride
14. Quiete E Tumulto
15. Canto Alla Notte
16. Canto Incompiuto
17. Fase Dello Specchio(Duello)
18. Ballata
19. Lirica Metafisica
20. Canto A Un Dio Nascosto
21. Danza Africana
22. Meditazione
 [Encore]
23. Il Pavone(Reprise)

(Pensiero! blog 2008.04.14)








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